サラ、単独の旅へ
秋の晴れた朝、サラはラメールを出た。
荷物は布の鞄一つ。中身は着替えが二組、食料が三日分、地図帳と羽ペン、小刀一本、それから父が持たせた小さな守り袋。
父は玄関先で見送った。今は杖を使えば自分で立てるくらいに回復していた。
「行ってらっしゃい」
「行ってきます」
サラは振り返らずに歩き出した。振り返ったら泣く気がして、それが嫌だったからだ。
十字路を曲がって、ラメールの外壁の門をくぐった。そこで一度だけ立ち止まり、深呼吸した。
(行こう)
目的地は南東だ。クロウから教えてもらった、古い交易路の痕跡が残る地域。正式な地図には載っていない小道が複数あるという話だった。
隊商の旅と違い、一人だから誰かのペースに合わせなくていい。気になる道があれば寄り道できる。気に入った場所があれば、二日でも三日でも留まれる。
最初の夜は、街道沿いの宿に泊まった。
宿の主人が「一人旅か、若い娘さんが」と言った。
「はい」
「危なくないか」
「大丈夫です」
「どこへ行く」
「地図を調べに」
主人が「地図師か」と聞いた。サラは少し考えてから「そんなところです」と答えた。
地図師、という言葉が、サラの中でしっくりきた。
地図を読む人ではなく、地図を作る人。
いつかそう呼ばれるようになりたいと、その夜初めて思った。
秀はサラが眠りにつくのを見ていた。
一人旅の最初の夜は、緊張と解放が混ざる。サラの顔はその両方を正直に表していた。
(いい旅になる)
根拠はないが、確かにそう思えた。




