ナレーターが感じた重さ
夏が来た。
テアトルムの空は高く、日差しは強く、大通りに子供の声が溢れた。
秀は半年ぶりに、視点を広く開いた。
レインを見た。コルに木剣を教えながら、任務をこなし、仲間たちの夕飯を用意している。日常が積み重なり、それぞれの顔に少しずつ厚みが出てきた。
サラを見た。次の旅に向けて準備をしながら、食堂の新メニューを考え、父と話し、クロウからの手紙を読んでいた。世界との接点が増えて、地図の線が一本一本増えていくように、サラの人生が広がっていた。
ガルドを見た。王都の訓練所でエイルたちに向き合い、夜は北方の報告書の補足を書いていた。かつて夜ごとうなされていた顔が、今は静かに眠れている。
三人の人生が、確実に動いている。
秀はその全部を見ながら、自分の中で何かが変わってきていることに気づいていた。
最初にテアトルムに来たとき、秀は「観客」として構えていた。舞台を見る人間。舞台に上がらない人間。干渉しない、操作しない、ただ見ている。
それは今も変わらない。
でも今は、「見ている」ことの意味が少し変わった気がした。
最初は、自分が楽しむために見ていた。
今は違う。
レインが試験に受かったとき、秀は嬉しかった。自分のことのように。
サラが古道の石に手を触れた瞬間、秀は泣いた。体がないのに、泣いた気がした。
ガルドが初めてエイルを前に笑ったとき、秀は胸の奥で何かが揺れた。
観客が、舞台の登場人物を愛するようになっていた。
それは観客として正しいのか、と秀は思った。
でも、すぐに答えが出た。
正しいも正しくないもない。愛さずにいられない人生というものが、この世界にはある。愛してしまうことが、この世界を見続ける理由になる。
(俺はここにいる)
秀は夏の空に向かって、声なく言った。
(見ている。覚えている。応援している。届かなくても、それは確かにある)
テアトルムに風が流れた。
レインの髪が揺れた。サラの地図帳のページがめくれた。ガルドの訓練所の旗がはためいた。
同じ風が、三人の場所を流れていった。
ナレーターの目は、今夜も静かに、この世界に注がれている。
夏の風の中で、輝輝 秀は、テアトルムを愛していた。




