ヘルムの夜と、ガルドの選択
北方の調査は三週間になった。
ヘルムを起点に、ガルドとエイルは周辺の村を回った。話を聞くたびに、状況の輪郭が鮮明になった。
武装組織「グレイ・ハンド」。三年前から北方に根を張り、十二の村から保護料を徴収している。表向きは「警備会社」だが、拒否した村への報復事例が複数ある。
記録はエイルがまとめた。
几帳面で論理的な記録だった。感情を排して事実を並べ、最後に「推察」として状況分析を添えている。ガルドは読んで「よく書けている」と言った。それだけで、エイルの顔が少し赤くなった。
問題は、帰り道に起きた。
村を出てすぐ、三人の男が道を塞いだ。
「村人と話していたな。何を聞いた」
グレイ・ハンドの構成員だった。装備は軽いが、目が慣れている。慣れた暴力を知っている目だ。
エイルが剣の柄に手をかけた。ガルドが片手でそれを止めた。
「旅人だ。道を教えてもらっていた」
「嘘をつくな。お前の目は騎士の目だ」
ガルドが少し考えた。
「……元騎士だ。今は教師をしている。生徒に北方の地形を見せるために来た」
「信じられないな」
「信じなくていい。でも通してくれ。俺たちはお前たちの邪魔をしに来たわけじゃない」
男たちが視線を交わした。
その隙にガルドが動いた。
素手で先頭の男の手首を掴み、剣を奪った。残り二人が動こうとした瞬間、奪った剣の柄で一人の鳩尾を打ち、もう一人の足を払った。
三秒だった。
三人が地面に転がっていた。
エイルが目を丸くしていた。
「……先生、強すぎます」
「行くぞ」
「あの人たち、また来ますか」
「来る。早く動け」
二人は馬を走らせた。
夜、安全な距離まで離れてから野営した。
焚き火の前でエイルが記録を書き直した。今日の出来事も、記録に加える。
ガルドが「怖かったか」と聞いた。
「はい。でも先生が止めてくれたので、考える前に体が動きました」
「それが問題だ」
エイルが顔を上げた。
「危険な場面では、体より先に頭を使え。俺が止めたのは、お前が剣を抜けば相手が本格的に動くからだ。状況を読んでから動く。それが今回の教訓だ」
エイルがしっかりと頷いた。
秀はその二人を見ていた。
ガルドが教師として、本物の実地授業をしている。知識ではなく、危機の中での判断の仕方を、背中で見せている。




