古道の先の集落
サラとクロウが古代街道を進んで四日目、道が開けた。
崖に挟まれた石畳の古道が、突然視界の広い高台に出た。そしてその高台の縁に、小さな集落があった。
「……地図にない」
サラが呟いた。
十数軒の石造りの家。煙突から煙が上がっている。人がいる。
クロウが「静かにしろ」と言い、二人は木陰で様子を見た。
集落の人々は、外の世界と切り離された生活をしているようだった。服装が百年前の様式に近い。言葉も、標準語と少し違う訛りがある。
「古道の守り人だ」
クロウが静かに言った。
「伝説で聞いたことがある。古い時代に道を管理していた一族の末裔が、山の中に残っているという話」
「実在したんですか」
「らしいな」
集落の入り口に老婆が現れた。二人に気づいているようで、まっすぐこちらを見ていた。
「来なさい」
老婆が言った。
サラとクロウが顔を見合わせた。
通された集落は、外から見るより豊かだった。自給自足で生活が完結していて、欠乏している様子がない。人々は穏やかで、子供たちが駆け回っている。
老婆は「久しぶりに外の人間が来た」と言った。
「道を見つけられるのは、本物の地図読みだけだ」
サラが「どういう意味ですか」と聞いた。
「あの道には目印がない。地図に書かれた情報だけを頼りに歩こうとする人間には、途中で道が消えて見える。でも地形を読める人間には、ちゃんと見える」
サラがハッとした顔をした。
途中で何度か、道が薄くなる場所があった。クロウが「消えた」と言っていたが、サラには見えていた。岩の配置と傾斜から、道の続きが読めたのだ。
「私が先を歩いていたのはそういうことだったんですか」
老婆が頷いた。
「あの道を最後に通ったのは、七十年前だ。久しぶりに外の空気を持ってきてくれた」
その夜、集落に泊めてもらった。
サラは火の前で老婆と話し込んだ。古道の歴史、集落の歴史、山の地形の変化。老婆の記憶は驚くほど詳細で、サラの地図帳はみるみる書き込みで埋まっていった。
秀はその様子をずっと見ていた。
サラが本当にやりたかったことは、これだったのかもしれない。地図を完成させることではなく、地図の向こうにいる人間と出会うこと。




