ナレーターの目に映る春
テアトルムに、春が来た。
北方へ向かったガルドとエイルは、調査の途中で小さな辺境の村に立ち寄っていた。
ルシアの山中では、サラがクロウと古代街道の全容を記録していた。
ラメールでは、レインとコルが朝の訓練をしていた。
そしてどこかの町では、名前も知らない誰かが今日も生きている。
秀は春の空を漂いながら、テアトルムという世界の広さを改めて感じていた。
三人を中心に見てきたが、この世界には数えきれないほどの人間がいる。それぞれの朝があり、それぞれの夜がある。
(全部は見きれない)
それはわかっている。でも、少しでも多くを見ていたい。
秀はふと、前世のことを考えた。
Stellar-iZのメンバーたちは、今頃どうしているだろう。
世界ツアーは続いているのか。それとも、秀のいないグループは解散してしまったのか。
零は、翔は、蓮は、湊は。
答えは出ない。出ないが、考えた。
(みんな、自分の道を歩いているだろう)
そう思えた。
あいつらは強い。自分がいなくなっても、それぞれの足で立てる。そういう仲間を選んで、そういう仲間を育てようとしてきた。信じていい。
テアトルムの風が流れた。
新しい草の匂いがした。
秀はその匂いを感じながら、今日もここにいることを確かめた。
体はない。声もない。名前を呼ぶ人もいない。
でも確かに、ここにいる。
見ている。覚えている。
レインが空に向かって深呼吸した。
サラが地図に新しい線を引いた。
ガルドが馬の上で地平線を見た。
三人の呼吸が、春の風に溶けた。




