表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
テアトルムのナレーター  作者: yuruhuwa回路


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/57

レインの路地裏

 テアトルムの朝は早い。


 夜明け前の薄青い光の中で、レインはもう起きていた。仲間たちがまだ眠っているのを確認してから、音を立てずに廃屋を出る。足裏に馴染んだ石畳の凹凸が、長年の習慣を語っていた。


 秀はその背中を追いながら、三日間この少年を観察し続けていた。


 わかってきたことがある。


 レイン・アッシュフォード。十四歳。両親は三年前の疫病で死んだ。それからは孤児院にいたが、院の主が金に困って子供たちを売ろうとしたとき、レインは七人の子供を連れて逃げた。今の廃屋はそれ以来の住処だ。


 盗みはするが、闇雲にはやらない。狙うのは大きな商家か、明らかに金を持て余している貴族系の店。困っているような小さな露店は狙わない。倫理観というより、これが自分で決めたルールらしかった。


 この三日で、秀はレインが実に頭の良い少年だということもわかった。


 逃げ道を常に三つ以上確保している。人の動きを読んで行動する。仲間の年下たちへの接し方が、年齢の割に丁寧で思いやりがある。


(ただの泥棒じゃない)


 秀は思った。これは、リーダーだ。


 今朝のレインは市場へ向かわず、反対方向に歩いていた。町を出て、少し歩いたところにある川辺に座り込む。懐から折れた鉛筆のような棒と、小さな紙切れを取り出した。


 何かを書いている。


 秀は視点を寄せた。


 描いているのは地図だった。町の地図。どこに見張りがいて、どの路地が袋小路で、どこに逃げ道があるか。それが丁寧に、しかしあくまで実用的に書き込まれている。


(戦略を立てているのか)


 驚いた。十四歳の少年が、一人でこんなものを作っているとは思わなかった。


「……今日は貴族通りに行く」


 レインが独り言を言った。


「ベルモント商会の配達日だ。あそこは荷運び人に積み荷の中身を確認させないから、人が多くなって混雑する。その隙に……」


 計画を声に出して確認している。仲間には言わない。何かあったとき、自分だけが捕まるように、だろうか。


 秀は静かにそれを聞いていた。


 感心と、切なさが混じる。


 この頭と行動力があれば、もっと別の道もあるはずだ。でもこの世界に、孤児が表の世界に出ていくための道がどれほど開かれているか。秀にはまだわからなかった。


 川面が朝日に光った。レインはしばらくそれを見てから、地図を折りたたんで立ち上がった。


 背中が、遠くに見えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ