北方への道
ガルドとエイルが北方に向けて出発した日、王都は快晴だった。
エイルは初めての遠出に緊張しているらしく、荷物の確認を三回した。ガルドはそれを黙って見ていた。
「忘れ物はないか」
「……あります」
「何だ」
「護符を置いてきました。取りに戻っていいですか」
ガルドが少し間を置いた。「走って取ってこい。ここで待つ」
エイルが走った。五分後に戻ってきた。
「護符、誰にもらった」
「母です。騎士になれるように、と」
「そうか。腰に付けておけ」
二人は北へ向かって馬を走らせた。
道中、エイルは質問が多かった。北方の地形、かつての任務の話、騎士として何が一番大変だったか。ガルドはほとんどを短く答えたが、エイルは毎回ちゃんと聞いていた。
二日目の夜、野営の焚き火の前でエイルが言った。
「先生は、怖いと思ったことはありますか」
「ある」
「どんなときに」
「判断を迷ったとき」
ガルドは焚き火を見ながら言った。
「剣を向けられることより、自分の選択が正しいかどうかわからないことの方が、ずっと怖い」
エイルがそれを聞いて、黙っていた。
「お前は怖いか」
「……はい。でもこの旅が終わったとき、少し怖くなくなっていたらいいなと思っています」
ガルドが初めて、エイルの前で笑った。
短く、かすかに、口元だけの笑いだった。でもエイルには見えていた。
「いい答えだ」
秀はその焚き火を見ていた。
師弟の間に流れる、言葉以上のもの。
前世で、メンバーたちと夜中に語り合ったときのことを思った。翔がいつか、「スグルと話すと怖くなくなる」と言っていた。自分はそのとき照れ隠しに笑ってしまったが、今ならもっとちゃんと受け取れた気がする。
「受け取ること」の大切さを、秀はこの世界で学んでいた。




