サラが見た古代街道
ルシア山脈は、想像より静かだった。
クロウとサラが山道に入って三日目、周囲の音が変わった。鳥の声が減り、風の流れが変わり、空気に石の冷たさが混じり始めた。
「この辺りから先は人が来ない」クロウが言った。「道が消えるからだ」
「古地図では、崖の横に段差があるはずです」サラが地図を見ながら言った。
「そこを下れば……」
「あった」
クロウが立ち止まった。
崖の横、苔と草に覆われた段差があった。人工的な角度で、石を積み上げた跡が残っている。
サラが駆け寄った。
段差を一つ降りた。また一つ。
崖の裏側に、確かに道があった。
幅は人が二人並べるくらい。石畳の痕跡が残っていて、両側に石積みの壁がかすかに続いている。百年以上前に作られたはずなのに、不思議と崩れていない。
サラが立ち止まった。
「……本物だ」
声が掠れた。
クロウが「ああ」と短く言った。
サラはしゃがんで、石畳の表面に手を触れた。石は冷たく、湿っていて、苔が柔らかかった。
(本当にあった)
誰かが作った。誰かが毎日歩いた。忘れられて、百年が経って、今サラの手がここにある。
秀はサラの手のひらを見ていた。
こういう瞬間のために、サラは本を読み続けたのだ。地図を書き続けたのだ。信じ続けたのだ。
「記録しろ」
クロウが言った。
「長さ、幅、状態、全部書き留めてくれ。それが仕事だ」
「はい」
サラは地図を広げ、ペンを持った。でも一度だけ、地図から目を上げて道の先を見た。
石積みの壁の向こうに、光が見えた。
出口がある。道は続いている。
サラは地図に線を引き始めた。
点線が、今日から実線になった。




