ガルドへの依頼
春の足音が聞こえ始めた頃、オルデンがガルドを呼んだ。
部屋には見慣れない男が一人いた。四十代で、文官の服装だが背筋が騎士のように伸びている。王宮に関係する人間だ、とガルドはすぐに察した。
「ガルド・クレイン元騎士。改めてお会いします」
男が言った。
「私は王宮内務省の調査官、セドリック・ロウといいます」
ガルドは黙って座った。
「北方の件はご存知ですか」
「噂程度には」
「実態を調査したい。現地の地形に詳しく、かつ北方の情勢を理解している人間が必要です。あなたにお願いしたい」
「俺は騎士ではない」
「存じています。だからこそ依頼です。騎士団を動かせば目立つ。非公式の調査には、立場のない人間の方が動きやすい」
ガルドがオルデンを見た。オルデンが「決めるのはお前だ」という顔をした。
「条件は」
「安全の保証はできない。ただし報酬は出す。それと……調査の結果によっては、お前の名誉回復を王宮に具申することもできる」
ガルドが目を細めた。
名誉回復。一年間、自分に関係のない話だと思っていた言葉だ。
「……名誉回復は条件に入れなくていい」
セドリックが驚いた顔をした。
「それより、調査の結果を正しく王宮に伝えることを約束してくれ。現場で見たことを、歪めずに上に届ける。それだけが条件だ」
セドリックが少し考えてから、「約束します」と言った。
ガルドが頷いた。
「いつ出発する」
「一週間後です」
「エイル・トーヴを同行させる」
「生徒を?」
「見習いとして。実地経験が必要な時期だ。俺が責任を持つ」
オルデンが「……お前が責任を持つと言うとは、変わったな」と小声で言った。
ガルドは答えなかった。
でもその表情は確かに、一年前と変わっていた。
秀はその場に漂いながら、物語の潮目が変わっていくのを感じていた。
個人の人生の話が、少しずつ世界という舞台の話と繋がり始めている。




