エイルの剣、初めて光る
王都の訓練所で、初めての模擬戦が行われたのは、冬が最も深い時期のことだった。
訓練生同士の試合形式で、ガルドとオルデンが審判を務める。訓練の成果を見るためのものだが、生徒たちの緊張は本物だった。
エイルの対戦相手は、体格のいい十八歳の先輩生徒だった。
誰もがエイルの負けを予想していた。体格差は明らかで、力では勝てない。
秀もそう見ていた。
試合が始まった。
先輩生徒が重い一撃を打ち込んできた。エイルが後退した。また打ち込む。また後退する。観客の生徒たちから「やっぱり」という空気が漂い始めた。
でも秀はエイルの足を見ていた。
後退しながら、角度を変えている。相手の打ち込む間合いを測っている。怯えているのではなく、待っている。
十合目。
先輩生徒の攻撃が一瞬大振りになった。
エイルが動いた。
後退の流れを利用した横への転換。相手の剣が空を切った瞬間、木剣の先端が先輩生徒の首元をかすめた。
「そこまで」
審判のオルデンが声を上げた。
静寂。
それから、どよめきが起きた。
先輩生徒が目を丸くしていた。
ガルドは無表情だったが、その目が僅かに細くなっていた。
秀にはわかった。それはガルドが感心したときの顔だった。
試合後、エイルがガルドのところに来た。
「先生、見てましたか」
「見ていた」
「どうでしたか」
「及第点だ」
エイルが少し笑った。
「及第点ですか」
「お前に満点を出す気はない。満足したら成長が止まる」
「……では何点ですか」
ガルドが少し考えた。
「六十点だ」
エイルが「それでも嬉しいです」と言った。
ガルドが「なぜだ」と聞いた。
「先生が先生になってから、生徒に点数をつけたのは今日が初めてだと思うので」
ガルドが黙った。
エイルは「ありがとうございます」と言って、仲間のところへ戻った。
ガルドは一人で中庭に残って、空を見た。
秀はその横にいた。
教えることが、この男に何かを返し始めていた。与えることで、逆に満たされていくものがある。
前世でリーダーとして感じていたことと、同じだった。




