レインの前に現れた影
冬のラメールに、一人の男が現れた。
レインが市場の見回りをしていたとき、人混みの中に見知った顔を見た。
かつての孤児院の主、ドレス・カイムだった。
別の町の牢にいると上官から聞いていた。なぜここにいる。
レインは足を止め、そっと距離を保ちながら男を追った。
ドレスは市場を歩きながら、何かを確認するように周囲を見ていた。孤児院があった方向に向かい、今はレインたちが住む旧建物の前で立ち止まった。
建物を見ている。
レインの頭の中で、何かが固まった。
コルたちがいる。
走り出しそうになる衝動を、レインは抑えた。衝動で動くと判断が歪む。まず確認してから動く。それが訓練で叩き込まれたことだ。
任務を一時中断して上官に報告した。上官は「お前が言っていた孤児院の男か」と言い、すぐに人を向かわせた。
ドレスはその日のうちに身柄を確保された。
調べてみると、別件で捕まっていたドレスは先月釈放されていた。ラメールに戻ってきた理由は、建物の取り戻しと、子供たちへの「報復」だった。
上官がレインに言った。
「お前が早めに動いてくれて助かった。独断で追ったことは今回は不問にする」
「はい」
「でも一つ聞く。なぜ衝動を抑えられた」
レインが少し間を置いた。
「……かつての俺なら、すぐに飛びかかっていたと思います。でも今は、仲間を守るために最善の動き方を考える癖がついたので」
上官が頷いた。「成長している」
レインは報告を終えて、旧建物に帰った。
コルが走り寄ってきた。
「何かあったの? 衛兵がいっぱい来てたけど」
「なんでもない」
「ほんとに?」
「全部終わった」
コルが「そっか」と言って走り去った。
レインは扉の前に立って、建物を見上げた。
この場所を守れた。
それだけが、今夜の全てだった。
秀はレインの後ろ姿を、しばらくそのまま見ていた。




