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テアトルムのナレーター  作者: yuruhuwa回路


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32/61

影を持つ男

 サラに声をかけた男の名前は、クロウ・ヴェインといった。


 年齢は三十代半ば。褐色の肌に、短く刈り込んだ黒髪。旅慣れた体格で、腰には短剣が一本。商人にしては目が鋭く、冒険者にしては物腰が静かだった。


「何者ですか」とサラが聞いた。

「情報商人と思ってもらえばいい」

「情報商人」

「地図、情報、調査。依頼を受けて動く」


 クロウは淡々と言った。


「ルシアの古道について、依頼人が知りたがっている。お前が詳しいと聞いた」

「なぜその古道が必要なんですか」

「それは言えない」


 サラが少し眉を寄せた。


「言えないなら、私も答えられません」


 クロウが初めて表情を変えた。面白いものを見るような目だった。


「依頼人は商会の人間だ。古道を使えば輸送コストが下がる。それだけだ。悪用はしない」

「……本当に?」

「俺の仕事は情報を売ることだ。嘘をついたら商売にならない」


 サラはしばらく考えた。


 父に目を向けた。父は「お前が決めろ」という顔をしていた。


「知っていることは話します。でも条件があります」


 クロウが「聞こう」と言った。


「その古道を、私も実際に見に行きたい。案内役として同行させてください」


 クロウが目を細めた。


「危険な場所だぞ」

「地図で調べた場所を実際に見るのが私の目的です。それが条件です」

「……わかった。考える」


 クロウは食事代を払って立ち上がった。扉の前で振り返った。


「三日後にまた来る。答えを聞かせてくれ」


 扉が閉まった。


 父がゆっくりと口を開いた。


「面白い男だったな」

「……怪しくないですか」

「怪しい。でも嘘はついてなかった」


 サラが地図の本を手に取った。ルシア山脈のページを開いた。


 秀はサラの手の動きを見ていた。


 決心は、もうほぼついている。

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