ナレーターが見た、星の話
冬の夜は長い。
テアトルムの星空は、ラメールでも王都でも、旅の野営地でも、等しく美しかった。同じ空が、どこにいる人間の上にも広がっている。
秀はある夜、視点を一つの場所に固定せず、三人を同時に見渡していた。
レインは新しい家の屋根の上に上って、星を見ていた。子供たちが寝た後に一人でやることらしかった。膝を抱えて、空を見上げている。
サラは食堂の二階の窓から、地図の本と星空を交互に見ていた。本に書かれた星座と、実際の星を照らし合わせているのかもしれない。
ガルドは中庭に一人立って、剣を抜き、ゆっくりと素振りをしていた。以前は抜けなかった剣を、今は静かに振っている。
三人が同じ空の下にいる。
知らないまま、繋がっている。
秀はその全部を同時に見ていた。
こういう瞬間が、ナレーターをやっていて一番好きだ、と思った。
舞台の上では、スポットライトは一人しか照らせない。でも俯瞰で見れば、舞台の上のすべての役者が見える。それぞれの照明の色が見える。それぞれの物語の密度が見える。
前世で立っていた場所では見えなかった景色が、今は見える。
(俺は今、幸せなんだろうか)
ふと、そう思った。
幸せ、という言葉が正確かどうかわからない。体がないから、温かいとも寒いとも感じない。腹も減らないし、疲れもしない。
でも。
レインが空を見上げているのを見るとき、胸の中で何かが動く。
サラが知らない土地の地名を口ずさむとき、同じものが動く。
ガルドが剣を静かに振るとき、それが動く。
その「何かが動く」という感覚が、もしかしたら幸せと呼んでいいものなのかもしれない、と秀は思った。
体がなくても、感じることはできる。
見ることができる。
覚えていることができる。
それはとても、静かで、豊かな在り方だった。
レインが屋根から降りた。
サラが窓を閉めた。
ガルドが剣を鞘に収めた。
三人が、それぞれの夜の中に戻っていく。
明日も、テアトルムの時間は動く。
三人の物語は、まだ序章に過ぎない。
秀はテアトルムの空に、静かに漂い続けた。




