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テアトルムのナレーター  作者: yuruhuwa回路


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30/73

ナレーターが見た、星の話

 冬の夜は長い。


 テアトルムの星空は、ラメールでも王都でも、旅の野営地でも、等しく美しかった。同じ空が、どこにいる人間の上にも広がっている。


 秀はある夜、視点を一つの場所に固定せず、三人を同時に見渡していた。


 レインは新しい家の屋根の上に上って、星を見ていた。子供たちが寝た後に一人でやることらしかった。膝を抱えて、空を見上げている。


 サラは食堂の二階の窓から、地図の本と星空を交互に見ていた。本に書かれた星座と、実際の星を照らし合わせているのかもしれない。


 ガルドは中庭に一人立って、剣を抜き、ゆっくりと素振りをしていた。以前は抜けなかった剣を、今は静かに振っている。


 三人が同じ空の下にいる。


 知らないまま、繋がっている。


 秀はその全部を同時に見ていた。


 こういう瞬間が、ナレーターをやっていて一番好きだ、と思った。


 舞台の上では、スポットライトは一人しか照らせない。でも俯瞰で見れば、舞台の上のすべての役者が見える。それぞれの照明の色が見える。それぞれの物語の密度が見える。


 前世で立っていた場所では見えなかった景色が、今は見える。


(俺は今、幸せなんだろうか)


 ふと、そう思った。


 幸せ、という言葉が正確かどうかわからない。体がないから、温かいとも寒いとも感じない。腹も減らないし、疲れもしない。


 でも。


 レインが空を見上げているのを見るとき、胸の中で何かが動く。


 サラが知らない土地の地名を口ずさむとき、同じものが動く。


 ガルドが剣を静かに振るとき、それが動く。


 その「何かが動く」という感覚が、もしかしたら幸せと呼んでいいものなのかもしれない、と秀は思った。


 体がなくても、感じることはできる。


 見ることができる。


 覚えていることができる。


 それはとても、静かで、豊かな在り方だった。


 レインが屋根から降りた。

 サラが窓を閉めた。

 ガルドが剣を鞘に収めた。


 三人が、それぞれの夜の中に戻っていく。


 明日も、テアトルムの時間は動く。


 三人の物語は、まだ序章に過ぎない。


 秀はテアトルムの空に、静かに漂い続けた。

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