サラの地図が導くもの
隊商がラメールへの帰路についた頃、サラは新しい地図を仕上げていた。
旅で実際に歩いた道を、本の地図と照らし合わせながら修正した地図だ。点線だった古代街道の場所も、古地図を参考に書き入れた。自分の目で確かめた地形の細部も、丁寧に書き込んである。
「それ、売れるぞ」
カルロスが覗き込んで言った。
「売りません」
「なんで。地図商に持ち込めば、いい値がつく」
「これは私が使うためのものなので」
カルロスが「次の旅のためか」と言った。
サラが少し間を置いた。
「……次の旅、ですか」
「お前は絶対またどこかへ行く。そういう目をしてる」
サラは地図を見た。ヴァルハイムから先、南方のルシア山脈。古代街道の点線。まだ自分の目で見ていない場所がいくつも描いてある。
「行けたら、行きたいです」
「なら行けばいい。うちの隊商はいつでも歓迎する。先生がいると助かる」
「ありがとうございます。でも……次は一人で行くかもしれない」
カルロスが驚いた顔をした。
「一人で? 危ないぞ」
「本で読んだ場所を、本で読んだ順番で、自分のペースで見たいので」
カルロスは笑った。
「先生らしい」
ラメールの町が見えてきたとき、サラは幌から顔を出して町を見た。
出発したときと同じ景色なのに、違って見えた。
自分が変わったのか、町が変わったのか。どちらでもある気がした。
父の食堂に帰り着いて、扉を開けると、父が床に座って窓から外を見ていた。
「……起き上がれるようになったの?」
「少しな。フィネさんに手伝ってもらった」
サラの目が滲んだ。
「お帰り」と父が言った。
「ただいま」とサラが言った。
それだけだった。それで十分だった。
秀はその場にいた。
旅立つ前夜と、帰ってきた夜。二つの「父娘の部屋」の景色を、秀は両方見ていた。
どちらも美しかった。どちらも、かけがえがなかった。




