レインと孤児たちの未来
夏が盛りを過ぎた頃、廃屋に問題が起きた。
建物が古くなりすぎていて、屋根の一部が崩れ落ちた。幸い夜中ではなく、昼間のことだったから怪我人は出なかった。でも雨が降れば中に水が入る。このまま冬を越せない。
レインは訓練から帰って、崩れた屋根を見て、しばらく黙っていた。
「引っ越しするしかないか」
コルが「どこへ?」と聞いた。
「……探す」
といっても、お金はない。廃屋は無断で使っていたが、倒れかけた建物だからこそ黙認されていた。新しい場所を借りる金など、どこにもない。
その夜、レインは初任務でもらった少ない給金を数えた。全部合わせても、一月分の家賃にもならない。
翌日、訓練の後でレインは衛兵隊の上官に相談した。
「子供たちの住処が壊れました。どこか使える場所を知りませんか」
上官が少し考えてから「孤児院に相談してみたらどうだ」と言った。
「孤児院から逃げた子たちです」
「……なぜ逃げた」
レインは事情を話した。院の主が子供を売ろうとしたこと、自分が連れ出したこと。上官は眉間に皺を寄せた。
「その院の主は今どこにいる」
「知りません」
「……わかった。少し調べる。それまで待てるか」
「はい」
三日後、上官から呼び出しがかかった。
「旧孤児院の主は、別件で捕まって今は別の町の牢にいる。空いた建物を町が管理しているが、使い手がいなくて困っているらしい。交渉次第では使えるかもしれない」
レインが目を見開いた。
「……交渉は自分でしていいですか」
「やってみろ。但し衛兵隊の見習いとして行くな。制服を着て行け。多少は話を聞いてもらえる」
レインは翌日、制服を着て町の管理事務所へ行った。
担当者は最初、子供の話など聞く気もない様子だった。でもレインが順序立てて話すうちに、徐々に表情が変わった。建物の維持費の話、子供たちが建物を管理する代わりに賃料を免除してほしいこと、将来的には衛兵になった自分が賃料を払えるようになること。
条件と見通しを、数字を挙げながら説明した。
担当者が「……お前、いくつだ」と聞いた。
「十四です」
「……わかった。上に確認するが、おそらく通る」
レインが事務所を出たとき、空が広く見えた。
秀はその後ろ姿を見ながら、静かに息を吐いた。
(やった、レイン)
誰にも届かない言葉を、それでも言った。
声が出なくても、思うことはできる。思うことが、ナレーターとしての秀の、唯一の感情の出口だった。




