レインの初任務
ラメールに夏が来た。
レインが初めての正式任務を言い渡されたのは、入隊からちょうど半年が経った日のことだった。
任務の内容は、市場の見回り。正規の衛兵が二人いる中で、見習いのレインはその補佐につく。平和な任務だが、初めての「仕事」だ。
レインは前夜、廃屋に帰って仲間たちに告げた。
「明日、初めての任務がある」
「やった!」とコルが声を上げた。
「レインが本物の衛兵みたいじゃないか」
「まだ見習いだ」
「でもすごいよ!」
リナがそっとレインの手を握った。言葉はないが、その手が「頑張って」と言っていた。
翌朝。
レインは初めて制服に袖を通した。まだ少し大きい。でも腰に帯剣した木剣の重さは、訓練で慣れた重さだった。
市場の見回りは、午前中で終わるはずだった。
終わらなかった。
昼過ぎ、市場の外れで騒ぎが起きた。酔った男が露店を壊している。正規の衛兵二人が対応に向かい、レインは「ここで待て」と言われた。
待った。
でも騒ぎが大きくなった。男が剣を抜いた。露店の女性が悲鳴を上げた。衛兵二人が抑え込もうとしているが、男は力が強く、手を焼いている。
レインは一瞬考えた。
命令は「ここで待て」だ。でも女性が危ない。
(どちらが正しい)
秀はレインの逡巡を見ていた。
規則に従うことと、目の前の人を守ることが衝突する瞬間。ガルドが一年前に経験したことと、同じ構造だ。
レインが走った。
命令よりも、目の前を選んだ。
男の注意を引くために大声を出し、衛兵の一人が体勢を立て直す隙を作った。男が剣をレインに向けた瞬間、もう一人の衛兵が背後から組み伏せた。
騒ぎが収まった。
「……お前、来るなと言っただろう」
衛兵の一人がレインに言った。
「はい」
「なぜ来た」
「女性が危なかったので」
衛兵は少し黙った。それからため息をついた。
「……今回は不問にする。でも次からは判断を上官に仰げ」
「わかりました」
「だが、お前の判断は間違っていなかった」
衛兵はそれだけ言って、記録を書き始めた。
レインは市場の端で一人立っていた。手が少し震えていた。怖かったのか、興奮しているのか、自分でもわからない顔をしていた。
秀にはわかった。両方だ。
人は怖いと感じながらでも動ける。動けたことで自分を知る。それが経験というものの本質だ。
夕方、レインが廃屋に帰ると、コルたちが待っていた。
「どうだった?」
「……まあまあだった」
「かっこよかった?」
「……わからない」
コルが笑った。「絶対かっこよかったよ」
レインは何も言わなかったが、その夜は少しだけ早く眠れた。




