王都の訓練所
王都アルカディアは、ラメールとは別の生き物だった。
石造りの城壁が幾重にも町を囲み、大通りには馬車が絶え間なく行き交い、塔の上には王旗がたなびいている。人の数も、音の密度も、ラメールの比ではない。
ガルドは王都の東区画にある騎士訓練所の門をくぐった。
秀はその後ろをついていった。
訓練所は広かった。石畳の中庭を囲む形で、訓練場、宿舎、厩舎が配置されている。中庭では十数人の若者が剣の型を練習していた。年齢は十五から二十歳前後といったところか。
「来たか」
オルデンが門の内側で待っていた。
「ああ」
「荷物は宿舎に置いてくれ。今日は見学だけでいい」
ガルドは荷物を置いてから、訓練場の縁に立った。
生徒たちは一様に上手くない。それがガルドには素直にそう見えた。型は覚えているが、体がついていない。動きが頭で考えた通りになっていない。剣を振る前の一瞬の迷いが、実戦では命取りになる。
「どう見る」と、横に来たオルデンが聞いた。
「素直な生徒ばかりだ」
「悪く言え」
「型に縛られすぎている。体が記憶する前に型を押し込もうとしている」
オルデンが「そうだ」と頷いた。
「俺もそう思っていたが、どう直せばいいかわからなくてな」
「……俺に教え方があるかどうかもわからない」
「やってみなければわからない」
ガルドは中庭の生徒たちをしばらく見ていた。
一人、気になる少年がいた。他の生徒が正面を向いて型をこなす中、その少年だけが何度も足の位置を変えながら試行錯誤している。上手くはない。でも考えている。
「あの少年は」
「エイル・トーヴ。十六歳。貴族の三男で、兄が二人いるから継承権はない。だから騎士を目指している。
頭はいいが、体の使い方が悪い」
「名前は覚えた」
秀はガルドの横顔を見た。
何かが動いた顔だった。
教えることで、ガルドの中で何かが再び動き始めようとしている。人は誰かを必要とされることで、もう一度立てる。それは前世でも、この世界でも、変わらない真理らしかった。
翌朝からガルドの授業が始まった。
最初の日、ガルドは生徒全員に型を見せた。完璧な型だった。生徒たちが静まり返った。
「今から俺が教えるのは型ではない。体の使い方だ。型はその後でいい」
それだけ言って、素振りを命じた。
エイルはガルドの言葉を、一言も漏らさず書き留めていた。




