廃屋の夜と、別れの形
レインが訓練を重ねるにつれて、廃屋の子供たちとの時間が減った。
それはどうしようもないことだった。訓練は朝から昼まで、雑用は夕方まで。帰る頃には日が傾いていて、食事を用意して、翌日の準備をして眠る。それだけで一日が終わる。
でも子供たちはレインが帰ってくるのを待っていた。
「レイン、今日何した?」
「訓練」
「また?」
「また」
コルが「剣の稽古、また教えてよ」と言い、別の子が「今日のご飯は何?」と聞き、小さな女の子のリナが黙ってレインの袖を掴んだ。
レインは全員に答えて、食事を用意して、それから外に出て一人で空を見た。
秀はその後ろ姿に、複雑なものを感じていた。
レインには迷いがある。
このまま衛兵隊の道を進めば、この子供たちの面倒を誰が見るのか。かといって、道を諦めたくはない。仲間のためだけに生きるのが正しいのか、自分の道を進むことが仲間を裏切ることになるのか。
(それは違う)
秀は思った。
自分の道を進むことと、誰かを大切にすることは、矛盾しない。前世でそれを学んだ。Stellar-iZのリーダーとして走り続けながら、メンバー一人ひとりの人生を大切にしてきた。どちらかを捨てる必要はなかった。
でも、それをレインに伝える手段がない。
もどかしい、というより、それがこの場所のルールだと秀は受け入れていた。言葉を届けられないなら、ただ見守るしかない。見守ることが、できることのすべてだ。
ある夜、リナが熱を出した。
レインは夜通し傍にいた。濡れた布を頭に当て、水を飲ませ、時々背中をさすった。明け方、熱が下がった。
「……レイン、ありがとう」
リナが細い声で言った。
「うん」
それだけだった。
でもレインの顔から、何かが消えていた。迷いが、ではなく、迷いを抱えたまま立ち止まっていた緊張感が。
翌朝、レインはコルを呼んだ。
「お前が一番しっかりしてる。俺が訓練で忙しいとき、リナたちを頼む」
「……俺が?」
「七歳でも、できることはある」
コルはしばらく考えた。それから胸を張った。「わかった」と言った。
レインは頷いて、訓練場へ向かった。
その後ろ姿は、前より少し軽かった。
人はどこかに重さを置いたとき、少し軽くなって前へ進める。重さを消すのではなく、誰かに預ける。それが「仲間」というものの機能なのかもしれない、と秀は思った。




