王都からの使者、再び
ガルドが返事を出してから二週間後、今度は使者ではなく、人が直接来た。
オルデン・ヴァーツ本人だった。
五十過ぎの、がっしりとした体格の男。白髪が多いが目は鋭く、動きに無駄がない。典型的な元軍人の佇まいだった。
ガルドが宿の食堂で昼を食べていると、扉が開いてオルデンが現れた。
「……なぜ来た」
「手紙じゃ足りないと思ったからだ」
オルデンは断りもなく向かいに座り、宿の主人にエールを注文した。ガルドは黙っていた。
「一年、どうしてた」
「飲んでた」
「そうか」
エールが来た。オルデンは一口飲んで、ガルドの目を見た。
「お前が任を解かれたのは、団長命令に背いたからだ。俺もそれは知っている。でも俺はお前に直接聞きたかった。なぜそうした」
ガルドが視線を落とした。
「……子供がいた」
「何?」
「任務の対象に、子供が紛れていた。見捨てれば任務は完遂できた。でもできなかった。それだけだ」
オルデンは長い間、黙っていた。
「……その子供は」
「生きている。王都の孤児院にいる。俺が金を送っている」
また沈黙が来た。
秀はテーブルの傍で、その会話を聞いていた。
そういうことか、と思った。
ガルドが剣を抜けなくなった理由。一年間飲み続けた理由。正しいことをしたのに、それが「命令違反」になってしまった矛盾。騎士として失格の烙印を押されながら、人間として正しいことをした男の、どこへも持っていけない感情。
「お前は間違っていない」
オルデンが言った。
「……規則違反だ」
「規則は間違っていた」
ガルドの目が揺れた。
「俺は訓練所で教官をしている。そこに剣を教える人間が一人欲しい。来るか」
「……俺は騎士団を追われた男だ」
「訓練所の教官に、騎士団の籍はいらない。剣が使えれば十分だ」
ガルドはしばらく考えた。
エールのグラスを回した。
それから、初めて秀が見る表情をした。決意、というより、諦めを超えた静けさ、とでも言うべき顔。
「……考える」
「一週間待つ」
オルデンはエールを飲み干して立ち上がった。
扉が閉まると、ガルドは一人残って窓の外を見た。
春の光の中で、子供たちが走り回っていた。




