レインの教えるということ
春が深まる頃、レインに変化があった。
廃屋の子供たちのうち、最年少のコルという七歳の少年が、レインに剣を習いたいと言い出したのだ。
「やめとけ」
レインは即答した。
「なんで」
「危ない」
「レインだってやってるじゃないか」
「俺は仕事でやってる。お前はやらなくていい」
コルは納得しなかった。三日連続で同じことを言いに来た。四日目にレインが折れた。
「……一回だけ見せる。それで興味なくなったらやめろ」
「やめない」
「……とりあえず来い」
訓練場の隅で、レインは木の棒を二本拾った。一本をコルに持たせ、構え方だけを教えた。
コルは嬉しそうに真似した。構えが滅茶苦茶だった。
「違う。足をこっちにして」
「こう?」
「……もう少し後ろ」
秀はその光景を見ていた。
レインが誰かに何かを教えている。それはこれまで見たことのない光景だった。レインはいつも一人で考え、一人で動き、仲間を守ることはあっても、教えることはしてこなかった。
どこか不器用だった。
説明が足りない。手取り足取りではなく、やって見せて「こうだ」で終わらせようとする。コルが同じ間違いを繰り返すと、少し眉が寄る。
「なんで俺がちゃんと教えても、できないんだ……」
「難しいんだもん」
「そんなに難しくない」
「レインが上手すぎるんだよ」
レインが黙った。
できる人間には、できない感覚がわからない。それはどの世界でも同じらしかった。
秀はそれを見ながら、デビュー当時の自分を思い出した。
自分では当たり前にできることが、他のメンバーにとってはそうではなかった。零が振り付けに何度も躓いていたとき、最初は「なぜできないのか」がわからなかった。でも諦めずに一緒にやり続けるうちに、できない理由が見えてきた。そして教え方が変わった。
レインはしばらく考えて、コルの手を直接取った。
「こういうことだ。感覚でわかるか?」
コルが「あ、わかった!」と声を上げた。
レインの眉間の皺が消えた。
「……もう一回やってみろ」
コルが素振りをした。今度は少しだけ形になっていた。
「うまくなった!」
「まだ全然だ」
「でも最初よりうまい!」
レインは何も言わなかった。でも口元が、ほんの少しだけ動いた。
秀は見逃さなかった。
それは笑顔の、かけらだった。




