手紙の返事
手紙が届いたのは、サラが旅立ったのと同じ週のことだった。
王都からの使者が宿に現れ、ガルドに封書を渡した。封蝋には見慣れた紋章が押されていた。近衛騎士団の紋章ではなく、もっと個人的な、旧知の男の家紋。
ガルドは部屋で一人、その手紙を開いた。
秀は横から内容を読んだ。
差出人はオルデン・ヴァーツ。ガルドがかつて副団長として仕えた騎士団の同期だった。今は王都の騎士訓練所で教官をしているという。
手紙の内容はこうだった。
「手紙を受け取って驚いた。生きていたか。居場所を探していた者もいたが、誰も見つけられなかった。お前が任を解かれた理由について、俺は別の見方をしている。あの件は、お前だけの責任ではなかった。一度王都に来てくれ。話したいことがある」
ガルドは手紙を読み終えて、しばらく動かなかった。
窓の外で、春の鳥が鳴いていた。
「……一年か」
ガルドが呟いた。
一年間、ここで飲み続けた。剣を腰から外して、逃げるように小さな町に来た。理由は手紙には書いていない。でも「あの件」という言葉で、ガルドの目が微かに揺れた。
何があったのか、秀にはまだわからない。
わからないが、ガルドがその件について深く傷ついていることはわかる。責任感の強い人間ほど、自分を責める傷は深い。
(前世で、似たような人間を知っている)
デビューして間もない頃、グループのプロモーションで失敗が続いたとき、翔が誰よりも自分を責めていた。「俺のせいだ」と何度も言って、夜中まで一人で練習していた。俺はそのとき、翔に言った。
「失敗した原因を考えるのは明日にして、今夜は飯を食え。空腹のまま考えると、判断が歪む」
翔は拍子抜けしたような顔で笑った。それから飯を食った。翌朝、翔は「やっぱりスグルが言ったことは正しかった」と言った。
ガルドにも、そういう言葉をかけてやれたなら、と思った。
でもできない。
だから秀は見ていた。
ガルドはもう一度手紙を読んで、折りたたんだ。それから机の引き出しを開け、紙と羽ペンを取り出した。
返事を書き始めた。
何を書いたかは見えなかった。でも書いた。それだけで十分だと、秀は思った。




