幕が降りるとき
朝7時と夜17時に投稿されますのでー
東京の夜空に、花火は上がらなかった。
それでも、武道館の外に集まった数千人のファンは、まるで打ち上げ花火を見上げるような瞳で、五人の名前を呼び続けていた。
「Stellar-iZ! Stellar-iZ! Stellar-iZ!」
歓声が壁を震わせ、床の振動として足の裏に伝わってくる。輝輝 秀はその震えを感じながら、バックヤードの廊下に立っていた。汗が首筋を伝い、Tシャツが肌に貼りついている。三時間に及ぶコンサートを終えた体は重いはずなのに、不思議と足は軽かった。
「スグル、ファンサ始まるよ!」
隣で日向 湊が手を振る。湊は年下のくせに、こういうときだけやたらと元気だ。その隣で五十嵐 翔が「俺もう限界なんだけど」と笑いながら文句を言い、鳳 蓮が「だったらさっさと行こうぜ」と翔の背中を押し、月詠 零が静かに二人の後ろを歩く。
五人いれば、それだけでいい。
秀はそう思いながら、仲間たちの後ろ姿を見つめた。世界ツアー前の日本最後のライブ。それが今夜だった。次にこの武道館のステージに立てるのは、世界を一周してからになる。感傷があるとすれば、そのくらいだ。
ファンとの交流スペースに出ると、金属柵の向こうから歓声が爆発した。秀はにこりと笑い、差し出された手に応え、サインを書き、写真に収まった。ファン一人ひとりの顔を見る。泣いている人、震えている人、信じられないというような顔で固まっている人。
人前に立つことに飽きた、などと思ったことは一度もない。ただ、人の人生というものは、スポットライトの当たっていない部分にこそ深みがある、とずっと感じていた。ステージの上から見える顔だけでは足りない。あの人は家に帰ってどんな夕食を食べるのか。どんな夢を見るのか。
そんなことを考えていた。
ふと、柵の向こうが騒がしくなった。後方から押し寄せる人波に、前列のファンが圧迫されている。スタッフが声を上げたが、人の熱気はそう簡単には収まらない。秀はバランスを立て直そうとしたが、足元に気づくのが遅れた。
階段。
そこに階段があることを、秀は忘れていた。
体が傾いた。手が空を切った。
誰かの悲鳴が遠くなった。
暗転。
救急救命士が駆けつけたのは、四分後だった。彼らは全力を尽くした。それだけは確かだ。それでも、輝輝 秀、二十二歳の心臓は、武道館の石段の上で、静かに止まった。




