第9話 元勇者たちは鉱山へ、俺は国賓へ? ~ざまぁの後は、王都が震え上がっていた~
店から放り出された三人は、泥まみれのまま地面に這いつくばっていた。
「くそっ……! 開けろ! 開けろアレン!」
「私のローブが……泥だらけ……信じられない……」
「お、俺の杖……いや、腹が減った……」
レオンがバンバンとドアを叩くが、反応はない。
店の周囲には結界が張られており、魔法も物理攻撃も一切通用しないのだ。
「おい、そこなゴロツキ共! 何をしている!」
そこへ、蹄の音と共に鋭い声が飛んだ。
村長に先導されて現れたのは、領主が派遣した『辺境警備隊』の騎士たちだった。
「た、助かった! おい騎士! 俺は勇者レオンだ! この店のアレンという男が俺たちの財産を奪ったんだ! すぐに捕縛しろ!」
レオンは騎士の姿を見るなり、救世主が現れたとばかりに喚き散らした。
だが、馬上の騎士隊長は冷ややかな目で彼を見下ろしただけだった。
「勇者レオン? 『光の剣』の?」
「そうだ! 知っているだろう! Sランクの……」
「ギルドからの手配書と照合しろ」
隊長の指示で、部下が水晶板を確認する。
「隊長。手配書にある『光の剣』は、度重なる依頼失敗と素行不良により、先日Cランクへ降格処分となっています。また、王都の借金取りからも逃亡中とのこと」
「なっ……!?」
レオンが絶句する。
騎士隊長は鼻を鳴らした。
「つまり、ただの『借金踏み倒しの逃亡犯』か。しかも、この村の恩人であるアレン殿の店を襲撃しようとしたな? 強盗未遂の現行犯で逮捕する!」
「はあぁ!? ふざけるな! 俺は勇者だぞ!?」
「待って! 私は聖女よ! 王都の神殿に連絡して……!」
「俺もだ! 俺は天才魔導師だぞ!」
三人は必死に抵抗するが、装備もなく、魔力も枯渇し、空腹で力が出ない彼らに、武装した騎士たちを退ける力など残っていなかった。
「黙れ! 連行しろ!」
ガシャーン!
無慈悲に手錠と足枷が嵌められる。
「いやだぁぁぁ! 放してえぇぇ!」
「アレン! 助けて! 嘘よ、全部嘘なの! 私たち友達でしょ!?」
マリアの悲痛な叫びが響くが、アレン雑貨店のカーテンは閉ざされたままだ。
彼らはそのまま家畜運搬用の馬車に詰め込まれた。
「罪状は重いぞ。北の『魔石鉱山』で、借金を返し終わるまで強制労働だ。……ま、一生かかっても無理だろうがな」
騎士の非情な宣告と共に、馬車が動き出す。
遠ざかっていく罵声と泣き声を、俺は店の二階から紅茶を飲みながら見送っていた。
「……さようなら。元気でな」
少しだけ、胸が軽くなった気がした。
これで本当に、過去との決別だ。
それから数日後。
王都の王城、その最奥にある『玉座の間』は、重苦しい空気に包まれていた。
「……報告は真か?」
国王の低い声に、宰相が脂汗を流しながら平伏する。
「は、はい……。辺境のリーゼ村にて流通しているポーション、及び武具の数々……鑑定の結果、すべてが『国宝級』であると判明しました」
宰相が差し出したのは、アレンの店で『銅貨1枚』で売られていたポーションだ。
宮廷筆頭魔導師が震える手でそれを掲げる。
「陛下……信じられませぬ。この純度、この魔力密度……かつて失われた古代魔法文明の技術すら凌駕しております。これ一本で、死にかけの兵士が瞬時に完治するでしょう」
「なんと……」
どよめきが走る。
さらに、騎士団長が一歩前に出た。
「武具に関しても同様です。村人たちが農具として使っている鎌や鍬……あれはすべて『ミスリル』や『アダマンタイト』製です。我が国の近衛騎士団の装備よりも遥かに高性能です」
「馬鹿な……! そんな貴重な資源を、農具にだと!?」
国王が玉座の肘掛けを叩いた。
「その店の主は何者だ!?」
「はっ。元Sランクパーティー『光の剣』の荷物持ち、アレンという若者です」
「荷物持ちだと? なぜそのような才ある者を野放しにしていた!」
宰相が青ざめた顔で答える。
「そ、それが……勇者レオンたちが『無能』と判断し、追放したそうで……当の勇者たちは先日、強盗未遂で鉱山送りになりましたが……」
国王は深くため息をつき、そして鋭い眼光を放った。
「愚か者どもめ……国益を損なうにも程がある。だが、過ぎたことは仕方ない。そのアレンという男、何としても我が国に囲い込まねばならん」
もし、隣国である軍事国家『ガレリア帝国』に彼が渡れば、パワーバランスは崩壊し、王国は滅びるだろう。
国王は立ち上がり、高らかに宣言した。
「直ちに死者を送れ! ……いや、わし自らが出向く! 手厚く迎え入れるのだ!」
「へ、陛下ご自身が!?」
「構わん! これは国の存亡に関わる事態だ。……『世界最高の錬金術師』のご機嫌を損ねぬよう、最善の礼を尽くせ!」
こうして。
俺がのんびりとスローライフを楽しんでいる間に、世界中が俺を求めて動き出そうとしていた。
当の本人は、「今日は天気がいいから布団でも干すか」などと考えているだけなのだが。




