表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/30

第9話 元勇者たちは鉱山へ、俺は国賓へ? ~ざまぁの後は、王都が震え上がっていた~

 店から放り出された三人は、泥まみれのまま地面に這いつくばっていた。


「くそっ……! 開けろ! 開けろアレン!」

「私のローブが……泥だらけ……信じられない……」

「お、俺の杖……いや、腹が減った……」


 レオンがバンバンとドアを叩くが、反応はない。

 店の周囲には結界が張られており、魔法も物理攻撃も一切通用しないのだ。


「おい、そこなゴロツキ共! 何をしている!」


 そこへ、蹄の音と共に鋭い声が飛んだ。

 村長に先導されて現れたのは、領主が派遣した『辺境警備隊』の騎士たちだった。


「た、助かった! おい騎士! 俺は勇者レオンだ! この店のアレンという男が俺たちの財産を奪ったんだ! すぐに捕縛しろ!」


 レオンは騎士の姿を見るなり、救世主が現れたとばかりに喚き散らした。

 だが、馬上の騎士隊長は冷ややかな目で彼を見下ろしただけだった。


「勇者レオン? 『光の剣』の?」

「そうだ! 知っているだろう! Sランクの……」

「ギルドからの手配書と照合しろ」


 隊長の指示で、部下が水晶板を確認する。


「隊長。手配書にある『光の剣』は、度重なる依頼失敗と素行不良により、先日Cランクへ降格処分となっています。また、王都の借金取りからも逃亡中とのこと」

「なっ……!?」


 レオンが絶句する。

 騎士隊長は鼻を鳴らした。


「つまり、ただの『借金踏み倒しの逃亡犯』か。しかも、この村の恩人であるアレン殿の店を襲撃しようとしたな? 強盗未遂の現行犯で逮捕する!」


「はあぁ!? ふざけるな! 俺は勇者だぞ!?」

「待って! 私は聖女よ! 王都の神殿に連絡して……!」

「俺もだ! 俺は天才魔導師だぞ!」


 三人は必死に抵抗するが、装備もなく、魔力も枯渇し、空腹で力が出ない彼らに、武装した騎士たちを退ける力など残っていなかった。


「黙れ! 連行しろ!」


 ガシャーン!

 無慈悲に手錠と足枷が嵌められる。


「いやだぁぁぁ! 放してえぇぇ!」

「アレン! 助けて! 嘘よ、全部嘘なの! 私たち友達でしょ!?」


 マリアの悲痛な叫びが響くが、アレン雑貨店のカーテンは閉ざされたままだ。

 彼らはそのまま家畜運搬用の馬車に詰め込まれた。


「罪状は重いぞ。北の『魔石鉱山』で、借金を返し終わるまで強制労働だ。……ま、一生かかっても無理だろうがな」


 騎士の非情な宣告と共に、馬車が動き出す。

 遠ざかっていく罵声と泣き声を、俺は店の二階から紅茶を飲みながら見送っていた。


「……さようなら。元気でな」


 少しだけ、胸が軽くなった気がした。

 これで本当に、過去との決別だ。




 それから数日後。

 王都の王城、その最奥にある『玉座の間』は、重苦しい空気に包まれていた。


「……報告は真か?」


 国王の低い声に、宰相が脂汗を流しながら平伏する。


「は、はい……。辺境のリーゼ村にて流通しているポーション、及び武具の数々……鑑定の結果、すべてが『国宝級アーティファクト』であると判明しました」


 宰相が差し出したのは、アレンの店で『銅貨1枚』で売られていたポーションだ。

 宮廷筆頭魔導師が震える手でそれを掲げる。


「陛下……信じられませぬ。この純度、この魔力密度……かつて失われた古代魔法文明の技術ロストテクノロジーすら凌駕しております。これ一本で、死にかけの兵士が瞬時に完治するでしょう」

「なんと……」


 どよめきが走る。

 さらに、騎士団長が一歩前に出た。


「武具に関しても同様です。村人たちが農具として使っている鎌や鍬……あれはすべて『ミスリル』や『アダマンタイト』製です。我が国の近衛騎士団の装備よりも遥かに高性能です」


「馬鹿な……! そんな貴重な資源を、農具にだと!?」


 国王が玉座の肘掛けを叩いた。


「その店の主は何者だ!?」

「はっ。元Sランクパーティー『光の剣』の荷物持ち、アレンという若者です」

「荷物持ちだと? なぜそのような才ある者を野放しにしていた!」


 宰相が青ざめた顔で答える。


「そ、それが……勇者レオンたちが『無能』と判断し、追放したそうで……当の勇者たちは先日、強盗未遂で鉱山送りになりましたが……」


 国王は深くため息をつき、そして鋭い眼光を放った。


「愚か者どもめ……国益を損なうにも程がある。だが、過ぎたことは仕方ない。そのアレンという男、何としても我が国に囲い込まねばならん」


 もし、隣国である軍事国家『ガレリア帝国』に彼が渡れば、パワーバランスは崩壊し、王国は滅びるだろう。

 国王は立ち上がり、高らかに宣言した。


「直ちに死者を送れ! ……いや、わし自らが出向く! 手厚く迎え入れるのだ!」

「へ、陛下ご自身が!?」

「構わん! これは国の存亡に関わる事態だ。……『世界最高の錬金術師』のご機嫌を損ねぬよう、最善の礼を尽くせ!」


 こうして。

 俺がのんびりとスローライフを楽しんでいる間に、世界中が俺を求めて動き出そうとしていた。


 当の本人は、「今日は天気がいいから布団でも干すか」などと考えているだけなのだが。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ