表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/30

第8話 勇者の全力の一撃が、看板娘のデコピンで沈んだ件 ~ゴミの処分はセルフサービスでお願いします~

「死ねぇっ! アレンンンッ!」


 勇者レオンが咆哮と共に床を蹴る。

 腐っても元Sランク。その踏み込みは鋭く、鉄の剣は風を切る音と共に俺の首を狙っていた。


 だが、俺は身じろぎ一つしなかった。

 避ける必要がないからだ。


 ガキンッ!!


 硬質な音が店内に響き渡る。

 レオンの剣は、俺の鼻先数センチのところで止まっていた。

 ……いや、止められていた。


「な……んだと……?」


 レオンが愕然と目を見開く。

 彼の渾身の一撃を、フェルが「人差し指と親指」だけで摘んで止めていたのだ。まるで汚い布切れでも摘むかのように。


「……遅い。止まって見えるぞ、人間」

「ば、馬鹿な! 俺は勇者だぞ!? 身体強化もかかっているのに!」

「勇者? それが貴様の種族名か? 我があるじが作る『失敗作の雑巾』の方が、まだ耐久力がありそうだが」


 フェルが冷酷にわらう。

 そして、指先にほんの少し力を込めた。


 パキンッ!


 ただの鉄の剣が、飴細工のように砕け散った。


「ひっ!?」

「次はお前がこうなる番だ」


 フェルが軽く――本当に、ハエを払う程度の力で、レオンの額にデコピンを放つ。


 ドォォォォン!!


 大砲のような音がして、レオンの体が吹き飛んだ。

 店の壁に激突……する寸前で、壁が淡く発光し、衝撃を吸収して弾き返す。俺が施していた『衝撃吸収結界』だ。店が壊れなくてよかった。


「がはっ……!? げぇぇ……ッ!」


 レオンは床に無様に転がり、白目を剥いて痙攣している。

 たった一撃。デコピン一発で、勇者は沈黙した。


「レ、レオン!?」

「ひぃぃっ! ば、化け物……!」


 マリアとガイルが悲鳴を上げ、後ずさる。


「くっ、こうなったら魔法で……!」


 ガイルが震える手で杖を構えるが、俺は溜息をついた。


「無駄だよ、ガイル」

「うるさい! 『ファイア・ボ……』」


 シュンッ。


 ガイルの詠唱が終わる前に、彼の杖が手元から消滅した。

 そして、俺の手の中に収まる。


「なっ、俺の杖が!? いつの間に!?」

「【自動収集】の応用だよ。所有権が曖昧なゴミは、回収できる設定にしたんだ」


 俺はボロボロの木の杖をへし折り、ゴミ箱へ放り投げた。


「マリア、君もだ。回復魔法を使おうとしても無駄だぞ。この店の中は『敵対者への魔力供給を遮断する』フィールド効果がある」

「そ、そんな……アレン、あなた、本当に人間なの……?」


 マリアが腰を抜かしてへたり込む。

 俺はカウンターから出て、彼らを見下ろした。


「分かったか? 君たちが強かったんじゃない。俺の装備と支援バフが強かっただけだ」


 俺は、床で呻いているレオンの前にしゃがみ込んだ。


「レオン。お前は俺を『役立たず』と言ったな。でも、その役立たずがいなくなった結果が、その無様な姿だ」

「あ……うぅ……俺は……勇者……」

「いいや、今の君たちはただの『Cランクのゴロツキ』だ。強盗未遂の現行犯でもある」


 俺はフェルに合図を送った。


「フェル、掃除の時間だ。生ゴミを外へ」

「御意!」


 フェルは楽しげに尻尾を振ると、レオンの襟首を掴み、さらにガイルとマリアの服も掴んで、三人をまとめて持ち上げた。


「や、やめろ! 放せ!」

「アレン! 待って、話し合おう! 私たちは幼馴染でしょ!?」

「ごめんなさい! 謝るから! ポーションを一本だけでいいからぁぁぁ!」


 三人が泣き叫び、命乞いをする。

 だが、俺の心は驚くほど凪いでいた。


「幼馴染だったよ。――昨日まではな。もう二度と顔を見せるな」


 俺は冷たく言い放ち、ドアを開けた。


「そぉれ、出荷だ!」


 フェルが三人を店の外へと放り投げる。

 彼らは美しい放物線を描き、泥だらけの地面へと転がっていった。


 バタンッ。


 俺は静かにドアを閉め、鍵をかけた。

 店内に静寂が戻る。

 甘いお香の香りが、悪臭を消し去ってくれた。


「ふぅ……すっきりしたな」

「うむ! 良い運動になったぞ。さあ主よ、邪魔者は消えた。続きだ、プリンの続きを寄越せ!」


 フェルが目を輝かせてテーブルに戻る。

 俺は苦笑いしながら、冷蔵庫(氷魔法石製)から新しいプリンを取り出した。


 窓の外では、泥まみれの三人が何かを叫んでいるようだが、防音ガラスのおかげで何も聞こえない。

 俺たちの平和な日常は、こうして守られたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ