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第6話 強欲な商人が「店の権利をよこせ」と騒いでいるが、番犬(フェンリル)がよだれを垂らして見ているぞ?

『アレン雑貨店』が開店してから一週間。

 店は連日大盛況だった。


「アレンさん、また鎌が折れちまって……」

「ああ、それなら『アダマンタイト合金』で補強しておきましたよ。これならドラゴンの鱗でも切れます」

「いや、俺が切りたいのは牧草なんだが……ま、いいか! ありがとう!」


 村人たちは最初は戸惑っていたが、今ではすっかり俺のオーバースペックな商品に馴染んでいた。

 平和で、充実したスローライフ。

 だが、そんな穏やかな午後のひとときを、一台の豪華な馬車が打ち破った。


 ヒヒィィィン!


 店の前に横付けされた馬車から、恰幅の良い、脂ぎった男が降りてくる。

 高そうな服を着ているが、その目は値踏みするように細められていた。


「ここか……噂の『激安チート雑貨店』というのは」


 男は店内に入ると、並んでいる村人たちを鼻で笑い、杖で床を叩いた。


「おい、どいたどいた! 私は王都の商業ギルド支部、支部長のゴロンゾだ! 店主はどこだ!」


 村人たちが怯えて道を空ける。

 カウンターにいた俺は、フェルに目配せして(彼女は今にも飛びかかりそうだった)、前に出た。


「私ですが、何か御用でしょうか?」

「ふん、貴様のような若造が店主か。まあいい」


 ゴロンゾと名乗った男は、カウンターにドン! と一枚の羊皮紙を叩きつけた。


「単刀直入に言おう。この店の商品の『専売契約書』だ。サインしろ」

「専売契約……ですか?」

「そうだ。今後、貴様の店の商品はすべて我が商会が買い取る。価格は……そうだな、今の販売価格の2倍! 銅貨2枚で買い取ってやろう!」


 ゴロンゾは恩着せがましく笑った。

 なるほど、理解した。

 彼はこの店の商品――『特級ポーション』などが、王都では金貨数枚(数万円~数十万円)で売れることを知っているのだ。それを銅貨2枚(200円)で買い叩き、ボロ儲けしようという魂胆らしい。


「お断りします」


 俺は即答した。


「は?」

「私はこの村の人たちのために店を開いたんです。あなたのような方に卸すと、村の人たちが買えなくなってしまう」

「……貴様、商売のイロハも分からんのか? 私は『商業ギルド』の支部長だぞ? この辺りで商売をするには、私の許可が必要なんだ。断ればどうなるか……」


 ゴロンゾの声がドスを利かせた脅しに変わる。

 典型的なパワハラだ。勇者パーティー時代、レオンによくやられていたのを思い出して、俺は少し冷めた目になった。


「脅しですか? 困りますね、うちは平和な雑貨屋なんで」


「ふん! 痛い目を見たくなかったら、さっさとサインを……」


 ゴロンゾが俺の襟首を掴もうと手を伸ばした、その時だった。


「――あるじに気安く触れるな、下郎」


 地の底から響くような声と共に、凄まじい殺気が店内を満たした。

 ゴロンゾの動きがピタリと止まる。

 カタカタと震えながら彼が視線を横に向けると、そこには――。


 銀髪の美少女、フェルが立っていた。

 ただし、その背後には、実体化した『巨大な銀狼の幻影』が揺らめいている。

 黄金の瞳は捕食者のそれであり、口元からはわずかにヨダレが垂れていた。


「グルルルル……。主よ、こやつは非常に不愉快だ。喰っていいか? 頭からガリッといっていいか?」

「ひ、ひぃぃぃぃッ!?」


 ゴロンゾの顔から血の気が引いた。

 商人の本能が告げているのだ。目の前にいるのは、可愛い看板娘などではなく、神話級の災厄モンスターだと。


「ま、ま、魔物……!? なぜ店にこんな……!」

「ああ、彼女はうちの番犬セキュリティです。ちょっと気が短くて。……で、契約の話でしたっけ?」


 俺がにっこり笑うと、ゴロンゾは半泣きで首を横に振った。


「い、いや! 結構だ! 忘れてくれ! というか命だけは助けてくれぇぇぇ!」


 ゴロンゾは転がるように店を飛び出し、馬車に逃げ込んだ。

 御者が鞭を打つ音と共に、馬車は土煙を上げて去っていった。


「……ふん、口ほどにもない。ただの脂肪の塊だったな」


 フェルが幻影を消し、つまらなそうに鼻を鳴らす。

 店内にいた村人たちが、一瞬の静寂の後、ワッと歓声を上げた。


「すげえぞアレン! 王都の商人を追い返した!」

「フェルちゃん、かっこいいー!」


 俺は苦笑いしながら、フェルの頭を撫でた。


「ありがとう、助かったよ。でも、次は食べる前に相談してくれよ?」

「うむ! 主の命令なら我慢しよう。……代わりに、今日の夕飯はあの『ハンバーグ』とやらを所望する!」

「はいはい」


 こうして、アレン雑貨店にまた一つ武勇伝が加わった。

 だが、逃げ帰ったゴロンゾが、ただで済ませるはずがなかった。

 彼は王都に戻る道中、すれ違った『ある一行』に、嘘の情報を吹き込んだのだ。


 ――「辺境の村に、お尋ね者の『アレン』という詐欺師が隠れている」と。


 その一行とは、Cランクに降格し、なりふり構わずアレンを探していた元勇者パーティー『光の剣』だった。

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