第59話 神級マグロを食べてたら異次元に飛ばされ、気付いたら『王立学園の用務員』になっていた
視界を埋め尽くす白い光の中で、俺はシステムの声と口論していた。
『警告。個体名アレン。貴方は「裏世界」の管理者を捕食しました。規定により、貴方を次期管理者として……』
「断る! 俺はただの道具屋だ! 魚になったら寿司が食えないだろうが!」
『……理解不能。拒否権はありません。強制転送を実行……エラー。抵抗が強すぎます。座標がズレています……』
ブツン。
唐突に浮遊感が消え、俺は重力に引かれた。
「うわああああッ!?」
ドサッ!!
柔らかい土と草の感触。
俺が目を開けると、そこは美しく手入れされた「中庭」だった。
バラが咲き誇り、噴水が水を上げ、遠くには煉瓦造りの立派な校舎が見える。
「……ここ、どこだ?」
海じゃない。空飛ぶ海でもない。
空気の匂いからして、おそらく元の大陸のどこか……かなり内陸部だ。
「イサナ! エリザベート! ……フェル?」
呼びかけるが、返事はない。
インベントリを確認する。道具や素材、そして食べかけの「究極の寿司」は無事だ。
だが、通信機(魔道具)は圏外。どうやら、仲間たちとは完全に逸れてしまったらしい。
「参ったな。……まあ、あいつらのことだ。すぐに俺の居場所を嗅ぎつけて(特にフェルとエリザベートは鼻がいい)、追いかけてくるだろう」
俺は楽観的に考え、立ち上がろうとした。
その時。
「――そこで何をしているのですか?」
冷ややかな声が降ってきた。
見上げると、モノクルの眼鏡をかけた、厳格そうな初老の女性が立っていた。黒いローブを纏い、手には杖を持っている。
「あー、いや、その……空から降ってきまして」
「空から? バカなことを。……むっ、貴方、その足元!」
彼女が指差した先。
俺が着地した衝撃で、手入れされていた花壇の一部がひしゃげてしまっていた。
「あちゃー……やっちまった」
「なんてことを! 明日は建国記念パーティーで、国王陛下もご覧になる花壇なのですよ!?」
女性が顔を青くして震えだす。
俺はポリポリと頭をかいた。
「すいません。……直しますね」
俺はインベントリから『世界樹の栄養剤(希釈済み)』を取り出し、ジョウロの水に混ぜて撒いた。
さらに【修復】スキルをこっそり発動。
シュワワワ……。
折れた茎が瞬時に繋がり、萎れた花が鮮やかに咲き誇り、ついでに蕾だったバラが一斉に満開になった。
「は……?」
女性の眼鏡がズレた。
「い、一瞬で……? しかも、品種改良前の『幻の青バラ』まで咲かせたのですか……!?」
「こんなもんですかね。じゃ、俺はこれで」
俺が立ち去ろうとすると、ガシッと肩を掴まれた。
「待ちなさい! 貴方、名をなんと申します!?」
「え? ……アレンですが」
「アレン殿! 貴方ほどの腕を持つ庭師を探していたのです!」
女性は俺の手を握りしめ、熱烈に言った。
「私はここ、『王立魔法剣士学園』の学園長です。実は先日、用務員が腰を痛めて辞めてしまいまして……どうでしょう、ウチで働きませんか? 寮・食事付きです!」
……学園?
そういえば、フェルが「最近、人間の若者が集まる訓練所が人気らしい」と言っていたな。
エリザベートたちに見つかるまでの間、無職でフラフラするよりは、衣食住が保証された場所に身を隠すのも悪くない。
それに「用務員」なら、目立たずにスローライフ(?)が送れそうだ。
「……いいですね。俺、掃除と修理には自信があるんですよ」
「採用です!!」
◇ ◇ ◇
数時間後。
俺は支給された灰色の作業着に袖を通し、学園の裏手にあるボロ小屋(用務員室)にいた。
「ふぅ。今日からここが俺の城(隠れ家)か」
手には、ボロボロの竹箒。
だが、俺の手にかかれば、これはただの箒ではない。
「【錬成】。……素材追加:ワイバーンの髭、風精霊の羽」
カッ!
竹箒が微かに発光し、『疾風の箒(自動追尾・高速清掃機能付き)』へと進化した。
「よし。これなら廊下の掃除も3秒で終わるな」
窓の外からは、剣の稽古をする生徒たちの掛け声や、魔法の爆発音が聞こえてくる。
ここには、未来の勇者や英雄を目指す「金の卵」たちが集まっているらしい。
「ま、俺には関係ない話だ。俺はただの用務員。枯れ葉を掃き、壊れた窓を直し、たまに購買部で余ったパンを齧る……そんな平穏な日々を送るんだ」
俺はニヤリと笑い、新しい職場へと繰り出した。
しかし、俺はまだ知らなかった。
この学園には、「落ちこぼれの劣等生」や「正体を隠した王女」、そして「魔族のスパイ」など、厄介なトラブルの種が山ほど転がっていることを。
そして、それらすべてが、なぜか「謎の凄腕用務員」である俺の元へ集まってくることを――。
評価、感想、励みになります。




