表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

59/59

第59話 神級マグロを食べてたら異次元に飛ばされ、気付いたら『王立学園の用務員』になっていた

 視界を埋め尽くす白い光の中で、俺はシステムの声と口論していた。


『警告。個体名アレン。貴方は「裏世界」の管理者マグロを捕食しました。規定により、貴方を次期管理者として……』

「断る! 俺はただの道具屋だ! 魚になったら寿司が食えないだろうが!」

『……理解不能。拒否権はありません。強制転送を実行……エラー。抵抗が強すぎます。座標がズレています……』


 ブツン。

 唐突に浮遊感が消え、俺は重力に引かれた。


「うわああああッ!?」


 ドサッ!!

 柔らかい土と草の感触。

 俺が目を開けると、そこは美しく手入れされた「中庭」だった。

 バラが咲き誇り、噴水が水を上げ、遠くには煉瓦造りの立派な校舎が見える。


「……ここ、どこだ?」


 海じゃない。空飛ぶ海でもない。

 空気の匂いからして、おそらく元の大陸のどこか……かなり内陸部だ。


「イサナ! エリザベート! ……フェル?」


 呼びかけるが、返事はない。

 インベントリを確認する。道具や素材、そして食べかけの「究極の寿司」は無事だ。

 だが、通信機(魔道具)は圏外。どうやら、仲間たちとは完全に逸れてしまったらしい。


「参ったな。……まあ、あいつらのことだ。すぐに俺の居場所を嗅ぎつけて(特にフェルとエリザベートは鼻がいい)、追いかけてくるだろう」


 俺は楽観的に考え、立ち上がろうとした。

 その時。


「――そこで何をしているのですか?」


 冷ややかな声が降ってきた。

 見上げると、モノクルの眼鏡をかけた、厳格そうな初老の女性が立っていた。黒いローブを纏い、手には杖を持っている。


「あー、いや、その……空から降ってきまして」

「空から? バカなことを。……むっ、貴方、その足元!」


 彼女が指差した先。

 俺が着地した衝撃で、手入れされていた花壇の一部がひしゃげてしまっていた。


「あちゃー……やっちまった」

「なんてことを! 明日は建国記念パーティーで、国王陛下もご覧になる花壇なのですよ!?」


 女性が顔を青くして震えだす。

 俺はポリポリと頭をかいた。


「すいません。……直しますね」


 俺はインベントリから『世界樹の栄養剤(希釈済み)』を取り出し、ジョウロの水に混ぜて撒いた。

 さらに【修復リペア】スキルをこっそり発動。


 シュワワワ……。

 折れた茎が瞬時に繋がり、萎れた花が鮮やかに咲き誇り、ついでに蕾だったバラが一斉に満開になった。


「は……?」

 女性の眼鏡がズレた。

「い、一瞬で……? しかも、品種改良前の『幻の青バラ』まで咲かせたのですか……!?」


「こんなもんですかね。じゃ、俺はこれで」

 俺が立ち去ろうとすると、ガシッと肩を掴まれた。


「待ちなさい! 貴方、名をなんと申します!?」

「え? ……アレンですが」

「アレン殿! 貴方ほどの腕を持つ庭師を探していたのです!」


 女性は俺の手を握りしめ、熱烈に言った。


「私はここ、『王立魔法剣士学園』の学園長です。実は先日、用務員が腰を痛めて辞めてしまいまして……どうでしょう、ウチで働きませんか? 寮・食事付きです!」


 ……学園?

 そういえば、フェルが「最近、人間の若者が集まる訓練所が人気らしい」と言っていたな。

 エリザベートたちに見つかるまでの間、無職でフラフラするよりは、衣食住が保証された場所に身を隠すのも悪くない。

 それに「用務員」なら、目立たずにスローライフ(?)が送れそうだ。


「……いいですね。俺、掃除と修理には自信があるんですよ」

「採用です!!」


 ◇ ◇ ◇


 数時間後。

 俺は支給された灰色の作業着に袖を通し、学園の裏手にあるボロ小屋(用務員室)にいた。


「ふぅ。今日からここが俺の城(隠れ家)か」


 手には、ボロボロの竹箒。

 だが、俺の手にかかれば、これはただの箒ではない。


「【錬成】。……素材追加:ワイバーンの髭、風精霊の羽」


 カッ!

 竹箒が微かに発光し、『疾風の箒(自動追尾・高速清掃機能付き)』へと進化した。


「よし。これなら廊下の掃除も3秒で終わるな」


 窓の外からは、剣の稽古をする生徒たちの掛け声や、魔法の爆発音が聞こえてくる。

 ここには、未来の勇者や英雄を目指す「金の卵」たちが集まっているらしい。


「ま、俺には関係ない話だ。俺はただの用務員。枯れ葉を掃き、壊れた窓を直し、たまに購買部で余ったパンを齧る……そんな平穏な日々を送るんだ」


 俺はニヤリと笑い、新しい職場へと繰り出した。


 しかし、俺はまだ知らなかった。

 この学園には、「落ちこぼれの劣等生」や「正体を隠した王女」、そして「魔族のスパイ」など、厄介なトラブルの種が山ほど転がっていることを。

 そして、それらすべてが、なぜか「謎の凄腕用務員」である俺の元へ集まってくることを――。

評価、感想、励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ