第58話 巨大マグロを解体したら、中から行方不明の『海賊王』が出てきて邪魔だった
空飛ぶ海での激闘を制し、俺たちは300メートルの「虹色銀河マグロ」を島クジラ『イサナ号』の背中に着地(着丼)させた。
ズシィィィン……!
イサナが重みで少し沈むほどの巨体だ。
「よーし! 早速『解体ショー』の始まりだ!」
俺はハチマキを締め直し、愛用の解体包丁(元・聖剣)を構えた。
エリザベートとリリアナ、それにクジラまでもが、涎を垂らして見守っている。
「まずは頭を落とす! ……硬いな、さすが神級。だが俺のスキルなら!」
【スキル:超・解体】発動。
スパァァァン!!
美しい断面を見せて、マグロの巨体が切り分けられていく。
宝石のように輝く赤身、霜降りの大トロ。その香りは、嗅ぐだけで白飯が3杯いけるレベルだ。
「次は内臓だ。ここにも希少部位があるかもしれん……ん?」
俺が胃袋のあたりに刃を入れた時だった。
カキンッ。
包丁が何か硬いものに当たった。骨ではない。金属のような感触だ。
「なんだ? 釣り針でも飲み込んでるのか?」
俺が切り口を広げると、そこにはなんと――「木製の小屋」があった。
マグロの胃袋の中に、小さなログハウスが建っているのだ。
「はぁ? 小屋?」
「アレン、あれって……まさか……」
リリアナが目を見開く。
ギイィィ……。
小屋のドアが開き、中からボロボロの服を着た、髭モジャの老人が顔を出した。
「……あー、眩しい。誰じゃ、ワシの昼寝を邪魔する奴は……おや? 空が見える。やっと外に出られたのか?」
老人は欠伸をしながら、キョロキョロと辺りを見回した。
その顔を見た瞬間、リリアナが叫んだ。
「と、父さん……ッ!?」
老人が反応する。
「ん? その声は……リリアナか? おお! リリアナじゃないか! 大きくなったのう!」
「父さん!! 生きてたのねぇぇぇ!!」
リリアナがマグロの胃袋の中に飛び込み、老人に抱きついた。
間違いない。
行方不明と言われていた伝説の海賊王、バルバロス本人だ。
「ガハハ! 生きてるとも! 10年前にこいつ(マグロ)に飲み込まれてしもうてな。胃袋の中に小屋を建てて、毎日このマグロの刺身を食って暮らしておったわ!」
「寄生虫かよあんたは!」
俺は思わずツッコミを入れた。
どうりでこのマグロ、栄養を取られている割に元気だと思ったら、体内から少しずつ食べられていたのか。
「父さん……寂しかったよぉ……!」
「すまんなぁ。出ようにも出口がなくてな。……おや? そこの兄ちゃんは誰じゃ?」
バルバロスが俺を見た。
「俺はアレン。通りすがりの道具屋だ。……で、感動の再会中悪いんだが」
俺は包丁を向けた。
「そこ、一番脂が乗ってる『カマトロ』の部位なんだ。邪魔だから退いてくれないか?」
「なっ、感動のシーンじゃぞ!?」
「知るか。鮮度が落ちるだろ」
俺は海賊王親子を強引に横に退かすと、解体を再開した。
神代米の酢飯を用意し、本わさびを擦り下ろす。
切り出したばかりの「虹色大トロ」を、分厚く切りつける。
「……へい、お待ち! 『虹色銀河マグロの究極握り』だ!」
ドン!!
大皿に盛られた寿司が光り輝く。
バルバロスがゴクリと喉を鳴らした。
「こ、これは……ワシが10年間、毎日食っていた刺身とは輝きが違う……!」
「当たり前だ。俺の技術と、最高のシャリ、ワサビ、醤油があるからな」
バルバロスが震える手で寿司を掴み、口に放り込む。
「…………!!!」
カッッッ!!!
海賊王の目からビームのような涙が噴出した。
「う、美味ァァァァァいッ!!! ワシが食ってたのはただの切り身じゃった! これこそが……これこそが料理じゃあ!!」
「父さん、私も……んんっ! とろけるぅぅぅ!」
「師匠! ほっぺたが落ちて無くなりましたわ!」
島クジラの背中で、全員が大トロの旨味に悶絶する。
俺も一貫食べた。
……口に入れた瞬間、脂が体温で溶け出し、濃厚な甘みが広がる。しかし、ワサビと酢飯がその後味を爽やかに洗い流し、次の一貫を誘う無限ループ。
「完璧だ……。これぞ第2章のゴールに相応しい味……」
俺は満足げに海を見上げた。
行方不明の父親も見つかり、究極の寿司も食った。
リリアナの願いも、海賊王の夢も、俺の食欲も、すべて満たされたのだ。
「さて、腹も一杯になったし、帰るとするか!」
「そうじゃな! 娘よ、地上に戻ったら、ワサビの栽培から始めるぞ!」
「もう、父さんったら!」
こうして、前代未聞の「マグロの中から生還劇」を経て、俺たちの冒険は大団円を迎える……はずだった。
ズズズズズ……。
マグロの死骸から立ち上る「虹色の魔力」が、空中で渦を巻き始めた。
「……ん? なんだあの光は?」
「師匠、嫌な予感がしますわ」
魔力の渦の中から、無機質なシステム音声が響いた。
『警告。神級存在の消滅を確認。世界のバランス維持のため、新たな「管理者」を選定します』
『ターゲットロック:道具屋アレン』
「……は?」
次の瞬間、虹色の光が俺の体を包み込んだ。
体が浮き上がる。
「お、おい! 何すんだ! 俺はただ寿司を食ってただけだぞ!」
「アレン!? 体が透けてるわよ!?」
「師匠ーーッ!!」
『転送開始。次なるステージへご案内します』
「ふざけんなぁぁぁ! デザート(プリン)まだ食ってねぇんだよぉぉぉ!!」
俺の絶叫と共に、視界がホワイトアウトした。
どうやら、俺の平穏なスローライフ(逃亡生活)は、まだ終わらせてくれないらしい。




