表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

58/59

第58話 巨大マグロを解体したら、中から行方不明の『海賊王』が出てきて邪魔だった

 空飛ぶ海での激闘を制し、俺たちは300メートルの「虹色銀河マグロ」を島クジラ『イサナ号』の背中に着地(着丼)させた。

 ズシィィィン……!

 イサナが重みで少し沈むほどの巨体だ。


「よーし! 早速『解体ショー』の始まりだ!」


 俺はハチマキを締め直し、愛用の解体包丁(元・聖剣)を構えた。

 エリザベートとリリアナ、それにクジラまでもが、涎を垂らして見守っている。


「まずは頭を落とす! ……硬いな、さすが神級。だが俺のスキルなら!」


 【スキル:超・解体】発動。

 スパァァァン!!

 美しい断面を見せて、マグロの巨体が切り分けられていく。

 宝石のように輝く赤身、霜降りの大トロ。その香りは、嗅ぐだけで白飯が3杯いけるレベルだ。


「次は内臓だ。ここにも希少部位があるかもしれん……ん?」


 俺が胃袋のあたりに刃を入れた時だった。

 カキンッ。

 包丁が何か硬いものに当たった。骨ではない。金属のような感触だ。


「なんだ? 釣り針でも飲み込んでるのか?」


 俺が切り口を広げると、そこにはなんと――「木製の小屋」があった。

 マグロの胃袋の中に、小さなログハウスが建っているのだ。


「はぁ? 小屋?」

「アレン、あれって……まさか……」

 リリアナが目を見開く。


 ギイィィ……。

 小屋のドアが開き、中からボロボロの服を着た、髭モジャの老人が顔を出した。


「……あー、眩しい。誰じゃ、ワシの昼寝を邪魔する奴は……おや? 空が見える。やっと外に出られたのか?」


 老人は欠伸をしながら、キョロキョロと辺りを見回した。

 その顔を見た瞬間、リリアナが叫んだ。


「と、父さん……ッ!?」


 老人が反応する。

「ん? その声は……リリアナか? おお! リリアナじゃないか! 大きくなったのう!」


「父さん!! 生きてたのねぇぇぇ!!」

 リリアナがマグロの胃袋の中に飛び込み、老人に抱きついた。


 間違いない。

 行方不明と言われていた伝説の海賊王、バルバロス本人だ。


「ガハハ! 生きてるとも! 10年前にこいつ(マグロ)に飲み込まれてしもうてな。胃袋の中に小屋を建てて、毎日このマグロの刺身を食って暮らしておったわ!」


「寄生虫かよあんたは!」

 俺は思わずツッコミを入れた。

 どうりでこのマグロ、栄養を取られている割に元気だと思ったら、体内から少しずつ食べられていたのか。


「父さん……寂しかったよぉ……!」

「すまんなぁ。出ようにも出口がなくてな。……おや? そこの兄ちゃんは誰じゃ?」

 バルバロスが俺を見た。


「俺はアレン。通りすがりの道具屋だ。……で、感動の再会中悪いんだが」

 俺は包丁を向けた。


「そこ、一番脂が乗ってる『カマトロ』の部位なんだ。邪魔だから退いてくれないか?」

「なっ、感動のシーンじゃぞ!?」

「知るか。鮮度が落ちるだろ」


 俺は海賊王親子を強引に横に退かすと、解体を再開した。

 神代米の酢飯を用意し、本わさびを擦り下ろす。

 切り出したばかりの「虹色大トロ」を、分厚く切りつける。


「……へい、お待ち! 『虹色銀河マグロの究極握り』だ!」


 ドン!!

 大皿に盛られた寿司が光り輝く。

 バルバロスがゴクリと喉を鳴らした。


「こ、これは……ワシが10年間、毎日食っていた刺身とは輝きが違う……!」

「当たり前だ。俺の技術スキルと、最高のシャリ、ワサビ、醤油があるからな」


 バルバロスが震える手で寿司を掴み、口に放り込む。


「…………!!!」


 カッッッ!!!

 海賊王の目からビームのような涙が噴出した。


「う、美味ァァァァァいッ!!! ワシが食ってたのはただの切り身じゃった! これこそが……これこそが料理じゃあ!!」

「父さん、私も……んんっ! とろけるぅぅぅ!」

「師匠! ほっぺたが落ちて無くなりましたわ!」


 島クジラの背中で、全員が大トロの旨味に悶絶する。

 俺も一貫食べた。

 ……口に入れた瞬間、脂が体温で溶け出し、濃厚な甘みが広がる。しかし、ワサビと酢飯がその後味を爽やかに洗い流し、次の一貫を誘う無限ループ。


「完璧だ……。これぞ第2章のゴールに相応しい味……」


 俺は満足げに海を見上げた。

 行方不明の父親も見つかり、究極の寿司も食った。

 リリアナの願いも、海賊王の夢も、俺の食欲も、すべて満たされたのだ。


「さて、腹も一杯になったし、帰るとするか!」

「そうじゃな! 娘よ、地上に戻ったら、ワサビの栽培から始めるぞ!」

「もう、父さんったら!」


 こうして、前代未聞の「マグロの中から生還劇」を経て、俺たちの冒険は大団円を迎える……はずだった。


 ズズズズズ……。

 マグロの死骸から立ち上る「虹色の魔力」が、空中で渦を巻き始めた。


「……ん? なんだあの光は?」

「師匠、嫌な予感がしますわ」


 魔力の渦の中から、無機質なシステム音声が響いた。


 『警告。神級存在の消滅を確認。世界のバランス維持のため、新たな「管理者」を選定します』

 『ターゲットロック:道具屋アレン』


「……は?」


 次の瞬間、虹色の光が俺の体を包み込んだ。

 体が浮き上がる。


「お、おい! 何すんだ! 俺はただ寿司を食ってただけだぞ!」

「アレン!? 体が透けてるわよ!?」

「師匠ーーッ!!」


 『転送開始。次なるステージへご案内します』


「ふざけんなぁぁぁ! デザート(プリン)まだ食ってねぇんだよぉぉぉ!!」


 俺の絶叫と共に、視界がホワイトアウトした。

 どうやら、俺の平穏なスローライフ(逃亡生活)は、まだ終わらせてくれないらしい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ