第57話 マグロがオーロラを食べるなら、俺の店で『人工オーロラ』を作って釣るだけだ
上空の海を遊泳する「虹色銀河マグロ」の猛攻は続いていた。
口から放たれる極太のオーロラ・ブレスが、雨あられのように降り注ぐ。
『ヴォォォォッ!(熱イ! 痛イ! 焦ゲルゥ!)』
「耐えろイサナ! お前もマグロ食いたいだろ!?」
島クジラ『イサナ号』は必死に回避運動を続けるが、巨体ゆえに限界が近い。
俺の放った銛も弾かれ、物理攻撃は決定打にならない。
「くそっ、あのマグロ、警戒心が強すぎる! 近づこうとすると逃げるくせに、遠くからはビームを撃ってきやがる!」
「師匠! このままではジリ貧ですわ! わたくしの魔力も持ちません!」
エリザベートが防禦結界を張りながら悲鳴を上げる。
俺は冷静に【解析】スキルでマグロのデータを再確認した。
【好物:高純度のオーロラ(魔力光)】
【習性:光り物に目がなく、動く光を反射的に追いかける】
「……なるほど。光り物が好きか。なら、話は早い」
俺はインベントリをごそごそと漁り、解体したポセイドンの残骸から「多面体プリズム・レンズ」と、以前の冒険で手に入れた「光精霊の鱗粉」を取り出した。
「エリザベート! 攻撃はやめだ! お前の光魔法を、このレンズに向けて全力で撃て!」
「は? 攻撃魔法ではなく、照明魔法をですの?」
「そうだ! 最高に派手で、美味しそうな光を出せ!」
俺は即席で作った巨大な「疑似餌」を、ハープーン・キャノンの先端に取り付けた。
名付けて――『特製ルアー:イリュージョン・オーロラ』。
「いくぞ! 照射開始!」
「もう、ヤケクソですわ! 『聖なる光よ(ホーリー・ライト)』最大出力!!」
カッッッ!!!
エリザベートの杖から放たれた閃光が、俺の持つプリズム・レンズを通過し、数千色の複雑な光の帯となって上空へ投影された。
それは本物のオーロラよりも濃密で、ギラギラと輝く、いかにも「人工的な(ジャンクフード的な)」光。
ピタリ。
暴れまわっていた虹色マグロの動きが止まった。
ギョロリ。
巨大な目玉が、俺たちの出した光に釘付けになる。
『(……ナニコレ。超綺麗。超美味ソウ)』
マグロの心の声が聞こえた気がした。
野生のオーロラしか食べたことのないマグロにとって、この高濃度魔力光は、人間で言えば「深夜の二郎系ラーメン」のような抗いがたい魅力を放っていたのだ。
「食いついた! 今だリリアナ、イサナを急上昇させろ! ルアーを動かすんだ!」
「わ、わかったわ! ほら、ご飯よー!」
イサナ号が急上昇する。光のルアーが夜空を舞うように動く。
マグロの理性が崩壊した。
ズバァァァァァン!!!
マグロが海面を割り、猛スピードで光に突っ込んできた。
大きな口を開け、ルアーごと俺たちを飲み込もうとする勢いだ。
「かかったな、食いしん坊め!」
俺はタイミングを見計らい、キャノンのトリガーを引いた。
今回は「銛」ではない。
先端についているのは、ルアーと共に仕込んだ『超強力粘着ネット弾(クラーケンの粘液製)』だ!
バシュッ!!
弾けたネットが、飛び出してきたマグロの顔面とエラを完全に拘束した。
『ブギョォォォッ!?』
マグロが身をよじるが、暴れれば暴れるほどネットが絡みつく。
「よし! 釣れた! だがこいつをこのまま暴れさせたら、身に血が回って味が落ちる!」
俺はインベントリから、最後の切り札を取り出した。
竜宮城の厨房から拝借してきた『氷の魔剣(包丁)』だ。
「エリザベート、俺を飛ばせ! 『神経締め(イケジメ)』にする!」
「無茶ですわ師匠! 生身で!?」
「鮮度が命なんだよォォォ!」
俺はエリザベートの風魔法で射出され、空中で暴れるマグロの眉間へと飛び乗った。
足場はヌルヌルするが、今の俺は「道具屋」兼「寿司職人」だ。
「悪いな、痛みは一瞬だ。最高の刺身にしてやるから成仏しろ!」
ズドン!!
俺は脳天にある急所へ、正確無比に氷の魔剣を突き立てた。
【スキル発動:解体(一撃必殺)】
カチンッ。
マグロの巨体が、一瞬で凍結魔法によって冷却され、その動きを完全に停止した。
鮮度100%、身割れなし、完璧な下処理だ。
「……獲ったどーーーッ!!」
俺は氷漬けになった300メートルのマグロの上に立ち、拳を突き上げた。
天地逆転の世界に、勝利の雄叫びが響き渡った。




