第54話 海賊王が遺したビデオレターを見たら、娘への愛と『究極の食材』への未練が凄かった
古代兵器ポセイドンが沈黙し、単なるS級素材の山と化した後。
ポセイドンが守るように塞いでいた壁の一部が、ゴゴゴ……と音を立ててスライドした。
「隠し部屋……ですの?」
エリザベートが杖の先で照らす。
そこには、竜宮城の煌びやかな装飾とは無縁の、質素な「船長室」のような空間が広がっていた。
古びた机、航海日誌、そして壁にかかった一枚の海賊旗。
「ここは……父さんの船の部屋と同じ……」
リリアナが震える声で呟き、部屋の中央にある机に歩み寄る。
そこには、水晶で作られた「記録球」が置かれていた。
「これが、父さんが遺した最後のメッセージ……」
リリアナが恐る恐る手を触れると、水晶が輝き出し、空中にホログラム映像が投影された。
映し出されたのは、豪快な笑みを浮かべた髭面の男。
伝説の海賊王、バルバロスだ。
『よぉ、これを見ているってことは、あの堅物のポセイドンをぶっ壊した大馬鹿野郎がいるってことだな! ガハハ!』
「父さん……!」
リリアナの目から涙が溢れる。
『そして、そこに俺の愛娘、リリアナはいるか? ……もしお前がここに辿り着いたなら、俺は誇りに思うぜ。お前は立派な海の女だ』
バルバロスの映像は、まるでそこにリリアナがいるかのように優しく語りかけた。
そして、表情を引き締める。
『さて、本題だ。俺が世界中から集めた財宝を隠したのは、ただの道楽じゃねぇ。……世界にはな、まだ人間が足を踏み入れてはいけない「裏の世界」があるんだ』
「裏の世界?」
俺とエリザベートが顔を見合わせる。第1章で戦った「奈落」とはまた別の脅威だろうか。
『俺はその入り口を見つけたが、開けることはできなかった。その扉を開く鍵……それこそが、俺の遺した最大の秘宝だ』
映像のバルバロスが指差すと、机の引き出しがカシャリと開いた。
中に入っていたのは、星空のように輝く青い金属で作られた、古びた「羅針盤」だった。
『こいつは「星詠みの羅針盤」。この世ならざる場所を指し示す唯一の道具だ。リリアナ、これを使って新しい世界を見に行け。そこには、俺が見られなかった景色と……』
バルバロスはそこで一瞬言葉を切り、ゴクリと喉を鳴らした。
『……そこには、「虹色に輝く究極の巨大マグロ」が泳いでいるらしいんだ! 俺はそれが食いたかった! 死ぬほど食いたかったぁぁぁ!!』
「「「は?」」」
『いいかリリアナ! 俺の夢はお前に託した! そのマグロを釣り上げ、最高に美味い刺身にして食ってくれ! それが俺の唯一の心残りだ! じゃあな!』
ブツン。
映像が切れた。
感動的なBGMが流れていたはずの空気は、最後の「マグロへの執着」で完全に吹き飛んだ。
「……リリアナ。お前の親父さん、いいキャラしてるな」
「ううう……父さんのバカァァァ! 感動を返してよぉぉぉ!」
リリアナが顔を覆って泣き崩れた(半分は呆れ泣きだが)。
しかし、俺の目は釘付けだった。
「虹色に輝く巨大マグロ……だと?」
俺は机の上の「星詠みの羅針盤」を手に取った。
【解析】スキルが瞬時にその構造を暴く。
【鑑定結果:次元航行コンパス(未完成)】
【必要素材:時空石、エーテル・ギア……(不足)】
「なるほど。この羅針盤は壊れているわけじゃない。エネルギー不足で動かないだけだ」
俺はニヤリと笑った。
「ポセイドンから引っこ抜いた『海神の動力炉』、ちょうどいいサイズだな」
俺はポセイドンのコアを、羅針盤の裏蓋に強引にねじ込んだ。
キュイイイイーン!!!
羅針盤が眩い光を放ち、針がグルグルと回転し、やがてピタリと「真下」――つまり、海底のさらに奥深くを指し示した。
「よし、修理完了。これで『究極のマグロ』への道が開かれた」
「師匠……目的が『世界の真実』から『マグロ』にすり替わってますわよ?」
「同じことだエリザベート。美味いものを探求することこそ、真理への近道なんだよ」
リリアナが涙を拭いて立ち上がる。
彼女の手には、父の形見の羅針盤がしっかりと握られていた。
「……わかったわ。父さんの夢、私が叶えてあげる。アレン、付き合ってくれる?」
「もちろんだ。ワサビも醤油も揃ってる。あとはマグロだけだからな」
こうして、海賊王の意志(と食欲)は受け継がれた。
俺たちが新たな冒険への決意を固めた、その時だった。
『――見ツケタゾ。我ラガ神ヲ破壊シタ、不届キ者ドモメ』
不気味な声が、深海の闇から響いてきた。




