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第52話 一番弟子がドリル潜水艦で突っ込んできた理由は『ご飯の炊ける匂い』だった

 竜宮城の宴会場は、幸せな空気に包まれていた。

 魚人族たちは「出汁茶漬け」の虜になり、リリアナは海賊王の娘としてではなく、一人の少女として人魚姫たちと笑い合っている。

 俺も、久しぶりの白米と醤油の味に、涙が出るほど感動していた。


「あー、食った食った。……あとはこれに、ピリッとした刺激があれば完璧なんだが」


 俺が贅沢な悩みを呟いた、その時だった。


 ズゴゴゴゴゴゴゴゴォォォォォ……!!!


 竜宮城全体を揺るがす、凄まじい振動が走った。

 魚人たちが悲鳴を上げる。


「な、なんだ!? 地震か!?」

「女王陛下! 上空……いや、天井にご注目ください!」


 兵士長が指差した先。

 光のドームの天井部分に、巨大な「螺旋状のドリル」が突き刺さっていた。


 ガガガガガガッ!!

 ドリルが高速回転し、世界最強硬度と言われる竜宮城の防壁を、紙のように食い破っていく。

 パリーン!!

 盛大な音と共に天井が砕け散り、海水と共に「ピンク色の潜水艦」が落下してきた。


「き、貴様らァ! 何者だ!」

 近衛兵たちが槍を構える。


 ズドン! と着地した潜水艦のハッチが開き、中から純白のドレス(防水加工済み)を纏った令嬢が優雅に降り立った。


「――見つけましたわ、師匠」


 金髪の縦ロールを揺らし、扇子で口元を隠すその姿。

 俺の愛すべき、そして恐るべき一番弟子・エリザベートだ。


「エリザベート!? お前、どうやってここまで……いや、そのドリル潜水艦はなんだ!?」

「師匠を追いかけるために、王立技術院を脅して……ご協力いただいて作らせましたの。名付けて『ラブ・ドリル号』ですわ!」


 ネーミングセンスは最悪だが、性能は凶悪すぎる。


「そこまでして俺を連れ戻しに来たのか……」

 俺が諦めて立ち上がろうとすると、エリザベートは鼻をくんくんと鳴らし、俺ではなく「土鍋」の方へと猛ダッシュした。


「やはり! この匂いですわ! 海流に乗って漂ってくる、甘く芳醇なデンプンの香り……! 『神代米』を炊きましたわね!?」

「え、そっち?」


 エリザベートは土鍋の中を覗き込み、空っぽなのを見て絶望の表情を浮かべた。


「遅かった……! 師匠の炊きたてご飯を逃すなんて……! わたくし、このために公務を放り出して来たのですのに!」

「市長の仕事しろよ!」


 彼女はガックリと肩を落としたが、すぐに気を取り直して懐から「あるもの」を取り出した。


「ですが、こうなることもあろうかと、最高の手土産を持ってきましたわ」


 彼女の手に握られていたのは、ゴツゴツとした緑色の根っこ。

 清涼感のある香りが鼻をくすぐる。


「それは……まさか、『本わさび』!?」

「はい! 師匠が以前『刺身にはワサビがないと始まらない』と仰っていたのを思い出し、王家の隠し農園から引っこ抜いてきましたの!」


 俺は震えた。

 醤油、米、出汁。そこに「わさび」が加わればどうなるか。

 それは「寿司(SUSHI)」の完成を意味する!


「でかしたエリザベート! さすが俺の一番弟子だ!」

「ふふん! もっと褒めてくださいまし!」


「女王陛下! 追加注文だ! 新鮮なイカとマグロを頼む!」

「え、ええ……わかりました(この人たち、侵入者となぜ仲良く料理を……?)」


 ◇ ◇ ◇


 数十分後。

 宴会場には、握りたての寿司が並んでいた。

 とろけるような脂の乗った深海魚の切り身に、神代米のシャリ。そこに本わさびを少し乗せ、幻の醤油につけて食べる。


「「「…………んん~っ!!!!」」」


 エリザベート、リリアナ、女王陛下、そして兵士長までもが、頬を押さえて悶絶した。

 わさびのツーンとくる刺激が、魚の脂をさっぱりとさせ、米の甘みを極限まで引き立てる。


「これが……スシ……!」

「わたくし、これを食べるために生まれてきたのかもしれませんわ……」


 エリザベートは幸せそうに寿司を頬張ると、俺に向かってウィンクした。


「師匠。わたくし、決めましたわ」

「何をだ?」

「市長は辞めます。これからは『アレン寿司・チェーン』のCEOとして、師匠と共に世界を回りますわ!」


 ……まあ、また騒がしくなるが、この寿司が食えるなら悪くないか。

 こうして、アレン一行に最強の弟子と"ワサビ"が再加入し、深海での宴は最高潮を迎えた。


 だが、俺たちは忘れていた。

 エリザベートのドリルが、「掘ってはいけない場所」まで振動を伝えてしまったことを。

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