第50話 海賊王の秘宝が『お米』だったので、クジラの背中で農業を始めることにした
島クジラの背中で、黒髭海賊団を(醤油の力で)撃退した後。
俺とリリアナは、まだ熱気が残る遺跡の中心部にいた。
『美味イ……モット……モット……!』
足元からは、島クジラの切実な思念が伝わってくる。
どうやら「焼きトウモロコシ(焦がし醤油味)」の味が忘れられないらしい。
「わかった、わかったから揺らすな。……おいクジラ、取引といこう」
『取引?』
「俺たちの言うことを聞いて、好きな場所に連れて行ってくれるなら、毎日この『特製醤油』を使った料理を振る舞ってやる」
『乗ッタァァァァァ!!!』
ズドォン!!
島クジラが喜びのあまり潮を吹き上げ、島全体がジャンプした。
こうして、俺たちは最強の移動手段――「生きた島」を手に入れたのだった。
◇ ◇ ◇
「さて、リリアナ。海賊たちは片付いたし、いよいよ『秘宝』のご対面といこうか」
「う、うん……! 父さんが命がけで守ろうとした宝……一体どんな凄い武器や金塊なのかしら……」
リリアナがゴクリと喉を鳴らし、遺跡の奥にある石の扉を開けた。
中には、神々しい光を放つ祭壇があり、その上には……たった一つの「小さな布袋」が置かれていた。
「……え? これだけ?」
リリアナが拍子抜けした声を出す。
俺は袋を手に取り、【解析】スキルを発動した。
【鑑定結果:黄金の稲穂の種(神代米)】
【説明:かつて神々が愛した、一粒で茶碗一杯分の栄養と旨味を持つ奇跡の米】
「……こ、これは……!!」
俺の手が震えた。
醤油がある。そして今、ここに「米」がある。
つまり、俺の食卓における「和食コンボ」が完成したのだ!
「アレン? どうしたの? 金貨じゃなくてがっかりした?」
「馬鹿野郎! 金貨なんて石ころ同然だ! これは『白米』だぞ!?」
「ら、らいす?」
俺はリリアナの肩を揺さぶった。
この世界の住人には馴染みがないかもしれないが、これは歴史を変える発見だ。
「いいかリリアナ。お前の親父さんは偉大だ。海賊王が遺した宝は、世界を武力で支配するものではなく、『世界中の胃袋を幸せにする種』だったんだよ!」
「そ、そうなの……!? 父さん、凄かったんだ……(よくわからないけど、アレンが喜んでるからヨシ!)」
感動に浸る間もなく、俺は動き出した。
島クジラの背中は広大で、土壌も肥沃だ。しかもクジラの体温で一年中温暖な気候が保たれている。
「よし、決めたぞ。今日からここを『アレン農園・海洋支部』とする!」
俺はインベントリからクワを取り出し、遺跡の周りの更地を猛スピードで耕し始めた。
『我ガ背中ガ……痒イ……ケド、悪クナイ……』
クジラも満更でもないようだ。
「リリアナ、お前は水路を引いてくれ! 醤油の泉からじゃなくて、真水の池からな!」
「なんで私が農作業を!? 私は海賊王になる女よ!?」
「美味しい『卵かけご飯』が食いたくないのか!?」
「……やるわ! 直ちに!」
こうして、海賊王の娘と、伝説の道具屋による、前代未聞の「洋上稲作ライフ」がスタートした。
数日後。
俺たちが乗る島クジラ――名付けて『イサナ号』は、大海原を悠然と泳いでいた。
背中には黄金色の稲穂が実り(神代米は成長が早い)、醤油の香ばしい匂いが漂っている。
その遥か後方。
水平線の彼方に、白煙を上げて猛追してくる巨大な豪華客船の姿があった。
「師匠ーーッ!! 逃がしませんわーーッ!! 醤油の匂いがしますわーーッ!!」
船首で仁王立ちする、エリザベートの姿が豆粒のように見える。
「げっ、もう追いついてきたのか!? ……イサナ、全速力だ! 潜行してもいいぞ!」
『了解。潜ル』
ザバァァァン!!!
イサナ号は巨大な尾びれを振ると、海中へと姿を消した。
エリザベートの船が到着した頃には、そこにはただの泡しか残っていなかったという。
「……ふぅ、危なかった」
海中に張られた結界の中で、俺は胸をなでおろした。
俺たちの冒険は、空(第1章)から海(第2章)、そして今度は深海へと舞台を移していくのだった。




