第49話 戦闘中だが、醤油が手に入ったので『焼きトウモロコシ』を作ることにした
島クジラの背中にある古代遺跡。
その中心で、俺は全身をサイボーグ化した海賊船長・黒髭ティーチと対峙していた。
「ギャハハ! その細腕で何ができる! 俺のこの『魔導義手』の錆にしてやるぜ!」
ティーチが右腕を掲げると、腕がガシャンと変形し、六連装の銃口が現れた。
ダダダダダダッ!!!
轟音と共に、魔力弾の嵐が俺を襲う。
「アレン、危ない!」
リリアナが悲鳴を上げる。
だが、俺は一歩も動かなかった。
【自動収集】スキルが、飛来する魔力弾の軌道を全て「素材」として認識し、俺の周囲に見えない収集範囲を展開しているからだ。
ヒュンヒュンヒュン……パシュッ。
弾丸は俺の体の寸前で、まるで手品のように消滅してインベントリに収納されていく。
「なっ!? ば、馬鹿な! 俺の弾が消えただと!?」
「うるさいな。今、忙しいんだよ」
俺はティーチを無視して、背後の「黒い泉」――天然醤油の湧き水へと歩み寄った。
ひしゃく(魔道具)ですくい、一口舐める。
「…………っ!!」
衝撃が走った。
濃厚な旨味、芳醇な香り、そして絶妙な塩加減。これだ、俺が求めていた「本物」の味だ!
「てめぇ、無視するんじゃねぇ!」
業を煮やしたティーチが、左手のフックを振りかざして突っ込んでくる。
「ちょっと待て。今、最高のアイディアが浮かんだ」
俺はインベントリから、以前の島で採取しておいた「ジャンボ・トウモロコシ」と、携帯用魔導コンロを取り出した。
コンロに着火。トウモロコシを乗せる。
そして、刷毛に、湧き出たばかりの新鮮な醤油をたっぷりと浸し……。
ジュワァァァァァ……!!!
熱されたトウモロコシに醤油が垂れた瞬間。
爆発的な「香り」が周囲に拡散した。
香ばしく、甘じょっぱく、あらゆる生物の食欲中枢をダイレクトに刺激する、悪魔的で暴力的な香り。
「なっ……なんだこの匂いはぁぁぁ!?」
「う、美味そうすぎる……! よだれが止まらねぇ!」
襲いかかろうとしていたティーチの動きが止まる。部下の海賊たちも、武器を取り落として腹を鳴らした。リリアナですらゴクリと喉を鳴らしている。
「ふっ、これぞ『焼きトウモロコシ』。醤油がなければ完成しない至高の縁日グルメだ」
俺が得意げにハケを動かした、その時。
『ヴォォォォォォォォォォン!!!』
足元の大地が、これまでで一番大きく揺れた。
遺跡の柱が倒れ、地面に亀裂が走る。
「な、なんだ!? 地震か!?」
「違う……! この島の持ち主が、腹を空かせたんだ!」
ズゴゴゴゴゴッ!!!
遺跡の周囲の地面が突き破られ、巨大なピンク色の「何か」が複数、天に向かって伸びた。
それは触手ではない。島クジラの口内にある無数の「舌」の一部だった。
『飯ダァァァ! ソノ匂イハ何ダァァァ!!』
クジラの思念が直接脳内に響く。
数千年間、海藻やプランクトンしか食べてこなかった超巨大生物が、初めて嗅いだ「醤油の焦げる匂い」に発狂したのだ。
「うわあああ! クジラの舌が襲ってきたぞぉぉぉ!?」
「逃げろ! 食われる!」
海賊たちがパニックに陥る。巨大な舌がのたうち回り、海賊たちをハエのように薙ぎ払っていく。
「ええい、邪魔だ! 俺のトウモロコシだぞ!」
ティーチが空気を読まずに、コンロの上のトウモロコシに手を伸ばした。
「おっと、横取りは許さん」
俺はトウモロコシをひょいと持ち上げ、避ける。
その直後。
ドォォォォォン!!!
ティーチがいた場所に、クジラの巨大な舌が高速で叩きつけられた。
哀れサイボーグ船長は、トウモロコシの代わりにクジラの舌の直撃を受け、星空の彼方へとカッ飛んでいった。
「お頭ぁぁぁぁ!?」
「ひぃぃぃ! 覚えてやがれーッ!」
残された海賊たちは蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。
静寂が戻る……わけもなく、興奮したクジラの舌はまだ暴れまわっている。
「もう、お行儀が悪いな」
俺は焼き上がったトウモロコシを一本、一番大きな舌に向かって放り投げた。
「ほらよ、おすそ分けだ」
パクッ。
巨大な舌がトウモロコシをキャッチし、地中(口内)へと引っ込んだ。
『…………美味イ。何コレ、超美味イ』
クジラの感動した思念が伝わってくる。
満足したのか、地響きは収まり、遺跡に再び平和が戻った。
「……信じられない。島の主を手懐けちゃうなんて」
リリアナがへたり込みながら呟く。
「ただの餌付けだよ。さあ、リリアナ。俺たちも焼きたてをいただこうぜ」
俺たちは醤油の香りに包まれながら、最高の勝利の味(焼きトウモロコシ)を噛み締めた。
こうして、俺はついに念願の「幻の醤油」を手に入れたのだった。




