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第47話 セイレーンの歌声がうるさいので、店の『テーマソング』を爆音で流してみた

『休日号』は、霧の立ち込める不気味な海域に差し掛かっていた。

 海図によれば、ここは「セイレーンの岩場」。美しい歌声で船乗りを惑わせ、船を岩礁に激突させる魔の海域だ。


「……ねえ、アレン。なんだか頭がぼんやりするの……」


 リリアナの目が虚ろになっている。

 霧の奥から、美しくも妖しいメロディが聞こえてくるのだ。


 ♪~ こっちへおいで…… 甘い夢を見せてあげる…… ~♪


 透き通るようなソプラノボイス。

 岩場の上には、鳥の翼と女性の上半身を持つ魔物・セイレーンたちが数羽、竪琴を弾きながらこちらを誘っている。


「あっちに行かなきゃ……船を、岩の方へ……」

 リリアナがフラフラと舵を切り、鋭利な岩礁へ突っ込もうとする。


「おい、しっかりしろリリアナ! 精神攻撃を受けてるぞ!」


 俺は彼女の肩を揺さぶるが、反応がない。

 【解析】スキルによれば、この歌声には「強制魅了」と「思考停止」の呪いが込められているらしい。


「チッ、これだから音楽家気取りの魔物は。……いいだろう。そっちが歌で来るなら、こっちは『商業ビジネス』で対抗だ」


 俺はインベントリから、巨大なスピーカーのような魔道具を取り出した。

 『魔導拡声器:ギガ・ボイス』。かつて王都でのセール呼び込み用に作ったが、近所迷惑すぎて封印していた代物だ。


「リリアナ、耳を塞いでろ。……スイッチ、オン!」


 カチッ。


 『♪~ いらっしゃいませ~! いらっしゃいませ~! ~♪』


 ズドォォォォン!!!


 セイレーンの歌声をかき消すほどの爆音が、海上に轟いた。

 流したのは、俺が作曲し、ノアに歌わせた『隠れ家ヘヴンのテーマソング(中毒性S級)』だ。


 ♪~ ポーション安いよ お買い得~! ~♪

 ♪~伝説の剣も 今日なら半額~! ~♪

 ♪~あなたの暮らしに 隠れヘヴン~! ~♪


 能天気なメロディと、購買意欲を中枢神経に直接叩き込むサブリミナル歌詞。

 その破壊力は凄まじかった。


「ギャアアッ!? な、なによこの歌は!?」

「調子が狂うわ! 私たちの呪いの歌がかき消される……!」

「で、でも……なんだか……ポーションが欲しくなってきた……!」


 岩場の上のセイレーンたちが、頭を抱えて苦しみ始めた。

 高尚な魔性のメロディが、俗世全開のスーパーのBGMに侵食されていく。


「くっ……! 負けるもんですか! もっと声を張り上げなさい!」


 セイレーンのリーダー格が叫び、対抗してさらに高音で歌い出す。

 しかし、俺はボリュームのツマミを最大(MAX)に回した。


「甘いな。ウチのテーマソングは、一度聴いたら三日は頭から離れない仕様だ!」


 『♪~ 今ならポイント 5倍デー!! 5倍デー!! ~♪』


「「「ご、5倍デー……だと……!?」」」


 セイレーンたちの動きが止まった。

 彼女たちもまた、海で暮らす生活者。「ポイント5倍」というパワーワードの魔力には抗えなかった。


「あ、ああ……行かなきゃ……店に行かなきゃ……」

「お買い得品……買わなきゃ損……」


 セイレーンたちは虚ろな目で呟きながら、岩場から飛び立ち、『休日号』の周りにパタパタと降りてきた。


「あ、あの……その店はどこにあるんですか……?」

「喉に効くアメとか、売ってますか……?」


 完全に「客」になっていた。


「へい、いらっしゃい。本店は大陸にあるけど、今は出張販売中だ」


 俺は拡声器を止め、ニヤリと笑った。

 正気に戻ったリリアナが、信じられないものを見る目で俺とセイレーンたちを見ている。


「……セイレーンを手懐けた? しかも、スーパーの歌で?」

「歌は国境も種族も超えるからな。……さて、お客さん。通行料代わりに、少し買い物をしていってくれよ?」


 結局、セイレーンたちは俺の作った『のど飴(ハチミツ・レモン味)』を大量購入し、「また新曲が出たら教えてください!」と言って手を振って見送ってくれた。

 海の難所は、ただの「優良顧客エリア」へと変わったのだった。

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