第46話 海賊王の宝の地図には、黄金よりも価値ある『スパイス』の場所が記されていた
最強の手漕ぎボート『休日号』の上で、リリアナは懐から一枚の羊皮紙を取り出した。
それは古ぼけていて、端が焦げている。
「これが、父さんが命がけで遺した『始まりの島』への地図よ」
「始まりの島?」
「ええ。この海域のどこかにあると言われる伝説の島。そこには、かつての海洋文明が隠した『世界を統べる秘宝』が眠っているらしいの」
リリアナは熱っぽく語る。
黒髭海賊団が狙っていたのは、金銀財宝ではなく、その島にある「秘宝」だったのだ。
「その秘宝を手に入れれば、私は海賊王の名を継ぎ、散り散りになった仲間たちを取り戻せる……。ねえアレン、私に力を貸して! あなたのその船と強さがあれば、きっと辿り着けるわ!」
リリアナは期待に満ちた瞳で俺を見つめた。
しかし。
「……パスだ」
「えっ?」
「俺はスローライフをするために家出したんだ。世界を統べるとか、海賊王とか、そういう面倒なのはもう懲り懲りなんだよ」
俺は欠伸をしながら、釣り竿の手入れを始めた。
前作(第1章)で「世界の管理者」だの「英雄」だの散々やらされたのだ。もうお腹いっぱいである。
「そ、そんな……! 財宝よ!? 山のような金貨や宝石があるのよ!?」
「金なら売るほどあるし」
「名声は!?」
「一番いらない」
リリアナが頭を抱えた。
彼女にとって、こんなに欲のない人間は初めてだったのだろう。
「……はぁ。仕方ないわね。じゃあ、この話はナシ。あんたが『食通』だって聞いたから、興味を持つと思ったんだけど」
「食通?」
リリアナは羊皮紙をしまおうとして、チラリと俺を見た。
「その伝説の島にはね、お宝と一緒に『神の調味料』が自生しているっていう噂があるの」
「……詳しく」
俺の手が止まった。
「文献によれば、一振りで腐った肉すら極上のステーキに変える『黄金の塩』や、舐めただけで不老不死になると言われる『奇跡の砂糖』……そして何より、あらゆる魚介料理を至高の味にする『幻の醤油』の湧き出る泉があるとか」
ガタッ!!
俺は猛スピードで立ち上がり、リリアナの肩をガシッと掴んだ。
「行くぞリリアナ。今すぐだ」
「早っ!? さっきまでのスローライフ願望は!?」
「美味い飯を食うことこそがスローライフの神髄だ! 特に醤油! 異世界に来てからずっと探してたんだよ! 魚はあるのに醤油がない苦しみがわかるか!?」
俺の目は、先ほどの海賊たちよりも血走っていたかもしれない。
海鮮丼、寿司、煮付け……。醤油さえあれば、俺の食生活は完全なものになる。
「わ、わかったわよ! じゃあ契約成立ね!」
リリアナは引きつった笑みを浮かべつつ、地図を広げた。
「でも問題があるの。この地図、古代魔法で暗号化されていて、読み方がわからな……」
俺は地図を覗き込んだ。
その瞬間、俺の【解析】スキルが自動発動する。
【鑑定結果:S級航海図】
【暗号化方式:古代海洋ルーン → 解読完了】
地図の上に、光の矢印と、現在の座標がホログラムのように浮かび上がった。
「……え?」
リリアナが目を丸くする。
「ここから北北西へ300キロ。途中、『セイレーンの岩場』と『渦潮地帯』を抜けた先だな」
「な、なんで一瞬で読めるのよ!? 父さんが何年もかけて解読しようとしてたのに!」
「道具屋だからな。説明書の類は読むのが得意なんだ」
俺は『休日号』の舵を切った。
目指すは幻の島。そして幻の醤油。
「さあ行くぞリリアナ! お前は波を見張っててくれ!」
「う、うん……。なんか思ってた冒険と違うけど、凄いわ!」
こうして、伝説の秘宝(調味料)を求めた、俺たちの航海が本格的にスタートした。
だが、俺たちが進む先には、海賊よりも恐ろしい「海の支配者たち」が待ち構えていた。




