第43話 辺境(だった場所)が都会になりすぎたので、家出することにした
世界を救う大掃除から、1年が経過した。
かつて静かな森の中にあった俺の店『隠れ家』は、今も変わらずそこにあった。
……ただし、周囲の環境を除いては。
「本日の『アレン中央駅』行きの魔導列車は、満員となっております」
「高層タワーマンション『フェル・タワー』、最上階の分譲開始です!」
「観光客の方は、ガイドラインに沿って整列してください!」
窓の外を見下ろせば、そこには地平線の彼方まで広がる「超巨大都市」があった。
俺の店を目当てに世界中から人が集まりすぎた結果、森は切り開かれ、高層ビルが立ち並び、空には飛空艇が飛び交う、世界最大の経済都市『聖都アレンバーグ』が爆誕してしまったのだ。
「……違う」
俺は執務室(かつての屋根裏部屋)で、山のような決裁書類に判子を押しながら呟いた。
「俺がやりたかったのは、こんな『市長』みたいな仕事じゃない……! 俺は、ひっそりと薬草を煮込んだり、変な剣を打ったりするスローライフがしたかったんだ!」
バァン! と机を叩く。
その音に、秘書官のようなスーツ姿に着替えたエリザベートが顔を上げた。
「どうなさいましたの、師匠(市長)? 次は隣国との通商条約の締結式がありますわよ」
「嫌だ! 俺は今日限りで市長を辞める!」
「またワガママを……。フェル様もノア様も、観光大使やインフラ管理で忙しいのですから、我慢してくださいまし」
エリザベートがため息をつく。彼女はこの1年で、公爵令嬢としての手腕を遺憾なく発揮し、この都市の実質的な支配者(女帝)となっていた。
「くそっ……俺の店なのに、俺の居場所がない……」
俺は窓を開けた。
眼下には、俺の顔を模した巨大な銅像が立っている。恥ずかしい。死ぬほど恥ずかしい。
俺は決意した。
「そうだ、支店を作ろう」
この都市はもう手遅れだ。エリザベートたちに任せよう。
俺は身分を隠し、誰も俺を知らない未開の地へ行き、そこでゼロからもう一度『隠れ家』を作るのだ。
「……ふふふ。そうと決まれば善は急げだ」
俺はインベントリから「転移魔法陣(長距離用)」を取り出した。
行き先はランダム。ここではないどこかなら、どこでもいい。
「あばよ、都会の喧騒! 俺は真のスローライフを取り戻す旅に出る!」
「あ、こら待ちく……師匠ーーッ!!」
エリザベートの静止を振り切り、俺は光の中に飛び込んだ。
◇ ◇ ◇
シュンッ。
転移の光が収まると、そこは見たこともない場所だった。
潮の香り。波の音。
目の前に広がっていたのは、見渡す限りの「大海原」と、ポツンと浮かぶ小さな「無人島」だった。
「……ここだ」
俺は砂浜に降り立ち、大きく深呼吸した。
人の気配はない。ビルもない。あるのは、白い砂浜と青い海、そしてヤシの木に似た植物だけ。
「最高だ……! ここなら、誰にも邪魔されずに素材集めができる!」
俺はガッツポーズをした。
しかし、俺はまだ気づいていなかった。
この海域が、世界中の船乗りたちが恐れる「魔の三角海域」の中心であり、深海には陸上とは比較にならない「S級海洋モンスター」たちがひしめいていることを。
ピロン♪
久しぶりに、あの懐かしい通知音が鳴った。
【自動収集スキル:新エリア「絶海」を認識しました】
【収集対象:クラーケンの吸盤、リヴァイアサンの鱗、人魚の涙……】
「お、いきなり大漁だな!」




