第41話 世界のバグを修正(デバッグ)するには、ダイ〇ン級の吸引力が必要だ
「奈落」の底、光の塔の前で対峙する二人のアレン。
黒いアレン――世界のバグ集合体は、歪んだ笑みを浮かべて手を掲げた。
「さようなら、オリジナル。世界ごと消え失せろ」
『Command: Delete All(全消去)』
彼の背後から、全てを無に帰す漆黒の波が押し寄せる。
それは物理的な攻撃ではない。存在そのものをデータレベルで抹消する、回避不能の即死コマンドだ。
「させぬわぁぁぁッ!!」
フェルが咆哮し、雷の障壁を展開する。
「全魔力解放! シールド最大出力!」
ノアとイヴも両手をかざし、幾重もの防御壁を作る。エリザベートも賢者の石を掲げて加勢した。
ズズズズズ……!
だが、黒い波は止まらない。障壁がガラスのように砕け散っていく。
「ぐぅっ……! 権限が違いすぎますわ……!」
「計算不能……このままでは、あと30秒で全滅します……!」
仲間たちが膝をつく。
黒いアレンが高笑いする。
「無駄だ無駄だ! 僕は『破壊』の権限者! 創造主といえど、今のキミはただの人間だろう!?」
……確かに、俺はただの人間だ。剣も振れないし、攻撃魔法も使えない。
だけど。
「勘違いするなよ、バグ野郎」
俺は仲間たちの前に進み出た。
手には、先ほど「黒い石板」と「白い石板(バグからスリ取った)」、そしてインベントリにあった「ミスリルのパイプ」を合成して作った、奇妙な機械が握られていた。
「俺は戦士じゃない。『道具屋』だ」
「ハッ! なんだその珍妙なガラクタは! 掃除道具か?」
「正解だ。お前はただの『バグ(ゴミ)』だろ? なら、掃除してやるのが管理者の仕事だ」
俺は機械のスイッチを入れた。
キュイイイイイイイン……!!
甲高いモーター音が響き渡る。
「喰らえ、『神造機具:アブソリュート・クリーナー(吸引力の変わらないただ一つの掃除機)』!!」
ズゴオオオオオオオオッ!!!
掃除機のノズルから、ブラックホールすら凌駕する猛烈な吸引力が発生した。
それは空気を吸い込むのではない。「不正データ」だけを識別し、強制的に吸い込むデバッグプログラムの物理的顕現だ。
「な、なんだこれはぁぁぁ!?」
黒いアレンの顔が歪む。
放たれた漆黒の波が、全て掃除機のノズルへと吸い込まれていく。
それだけではない。黒いアレンの体そのものが、麺のように引き伸ばされ、ズルズルと吸い寄せられ始めた。
「バ、馬鹿な!? 僕の権限が……吸い取られる!? やめろ、離せぇぇぇ!」
「離さん。お前みたいな頑固なホコリは、強モードで一撃だ!」
俺は出力を最大にした。
『Mode: Full Power Cleaning(大掃除)』
ズッポォォォォン!!!
「ギャアアアアア……私は絶望……私は虚無……ああっ、ノズルがくすぐったいぃぃぃ……!!」
情けない断末魔と共に、黒いアレンはスポンッ! と掃除機の中に吸い込まれた。
俺は素早くダストボックスを外し、中身を「ゴミ箱フォルダ」へと転送。そして「ゴミ箱を空にする」を実行した。
ピロン♪
軽快な完了音が響き、周囲の風景が一変した。
どす黒い「奈落」の壁が、美しい青空のデータへと書き換わっていく。
エラー警告が消え、光の塔が正常な輝きを取り戻した。
『System All Green. World Repair Complete(世界修復完了)』
「……ふぅ。掃除完了」
俺は掃除機を肩に担ぎ、汗を拭った。
シーン……。
静まり返る現場。
仲間たちが、ポカーンと口を開けて俺を見ている。
「……し、師匠?」
エリザベートが恐る恐る声をかける。
「世界の危機を……掃除機で吸って終わらせましたの……?」
「ああ。所詮はデータ上のゴミだからな。物理で殴るより、吸ったほうが早い」
「主よ……お前の発想は、神をも恐れぬな(元・神だが)」
フェルが呆れつつも、誇らしげに尻尾を振った。
そこへ、管理者の少年・アドミンが歩み寄ってきた。
彼の瞳からは、憑き物が落ちたように涙が流れている。
「ありがとう……アレン。いや、父さん(クリエイター)」
「父さんはやめろ。まだ独身だ」
アドミンは深々と頭を下げた。
「世界は救われました。貴方が戻ってきてくれたおかげです。……どうですか? このまま『神』の座に復帰して、私と共にこの世界を導いていくというのは」
神の座。
全知全能の力。世界の全てを意のままにできる権限。
……まあ、悪い話じゃないかもしれない。
でも。
「断る」
俺は即答した。
「え?」
「俺はもう、ただの『アレン』だ。辺境で店をやって、常連客と話して、フェルたちと美味い飯を食う。……そっちの方が、神様やるよりずっと楽しいんだよ」
俺は仲間たちの方を振り返った。
エリザベート、ノア、イヴ、カゲロウ、そしてフェル。
みんなが俺を待っている。
「それに、俺の店にはまだ、世界中から注文が殺到してるんでね。忙しいんだ」
アドミンはキョトンとした後、フッと笑った。
「……そうですか。貴方らしい。では、世界の管理は引き続き私が(適度に休みながら)行います」
「ああ。また疲れたら、コタツに入りに来いよ。サービスしてやる」
俺たちは握手を交わした。
こうして、世界を救うデバッグ作業は終了した。
「さーて、帰ろうぜ! 今夜は勝利の宴会だ! 鍋にするぞ!」
「「「おー!!」」」
「主よ、肉だ! 高級肉をよこせ!」
「お父様、コタツのコンセントも忘れずに回収しました」
俺たちは「移動要塞・隠れ家号」へと戻っていく。
青空に浮かぶその店は、世界で一番頼りになる、最高の「道具屋」だった。




