第40話 世界の『管理者』よりも、俺の権限の方が上だった件
「コタツ」での団欒(という名のサボり)から数時間後。
俺たちは重い腰を上げ、世界の管理者である少年――「アドミン(仮名)」の案内で、「奈落」の底へと降りていた。
移動要塞(店)は上に待機させ、俺、フェル、エリザベート、ノア、イヴ、そしてアドミンの少数精鋭チームだ。
「……ここが、世界の裏側です」
アドミンが指差した先には、巨大な「光の塔」がそびえ立っていた。
岩肌だと思っていた周囲の壁は、よく見ると無数の幾何学模様(回路)で覆われており、青白い光が脈打っている。
ファンタジー世界だと思っていたが、その中身は超高度な機械文明の産物だったのだ。
「あれが『メインコンソール』。この世界の全法則を司る心臓部です。あそこでエラーログを削除し、システムを再起動すれば世界は救われます」
アドミンは淡々と言うと、空中にキーボードのような光の板を展開した。
「アクセス開始。……認証コード『Administrator』。……権限行使、システム修復プログラム起動……」
ブォン……ブォン……。
塔が明滅し、順調に進んでいるように見えた。
だが。
『――Error. Access Denied(アクセス拒否)』
無機質な音声と共に、光の板が赤く染まった。
「なっ……!? 拒否された? 私はこの世界の神だぞ!?」
アドミンが焦ってキーを叩くが、赤い警告ウィンドウが増殖していく。
『警告:現在のユーザー権限では、深層領域の操作は許可されていません』
「馬鹿な……! 私より上位の権限など存在しないはず……」
アドミンが愕然として振り返る。その視線が、俺の胸元で止まった。
俺のポケットに入っていた、あの「黒い石板」が激しく振動していたのだ。
「……アレン、お前、まさか……」
俺は導かれるように、コンソールへと歩み寄った。
石板をかざす。
『――認証成功。Welcome back, Creator(お帰りなさい、創造主様)』
瞬時に赤い警告が消え、全てが美しい青色に変わった。
「そ、創造主……!?」
エリザベートが息を呑む。
「師匠が……神様の上司でしたの!?」
「……思い出した」
光に包まれた瞬間、俺の脳裏に失われていた記憶が奔流となって流れ込んできた。
かつて、科学文明が極まった世界。
環境汚染で住めなくなった地球を捨て、人類は精神をデータ化し、仮想世界へ移住する計画を立てた。
その仮想世界――この「ファンタジー世界」を設計・開発したチーフエンジニア。それが俺の前世だったのだ。
「俺は……この世界を作ったプログラマーだったのか」
「そんな……貴方が、私の『生みの親』……?」
アドミンが呆然と膝をつく。
だが、感傷に浸っている暇はなかった。
システムが再起動しようとしたその時、塔の根元から「黒い泥」のようなものが溢れ出したのだ。
「――サセナイ。世界ハ、コノママ終ワルベキダ」
泥が凝縮し、一人の人間の形をとる。
そこに現れたのは、俺と瓜二つの顔を持ちながら、全身が漆黒に染まった「もう一人のアレン」だった。
「主よ、あれはなんだ!? お前と同じ匂いがするが、腐っているぞ!」
フェルが牙を剥く。
「あれは……俺の『負の感情』か? いや、システムに巣食うバグの集合体か」
「初めまして、オリジナル。僕はキミが捨てた『バグ』であり、この世界の『絶望』だ」
黒いアレンが笑う。
その手には、俺が持っている石板と対になる、「白い石板」が握られていた。
「キミが『創造』の権限を持つなら、僕は『破壊』の権限を持つ。……さあ、最後のデバッグ作業を始めようか」




