第4話 辺境の村人が腰を抜かした。特売のポーション(銅貨1枚)が、王都の秘薬より凄かった件
翌日。
爽やかな朝の日差しと共に、『アレン雑貨店』はいよいよ開店の時を迎えた。
「フェル、準備はいいか?」
「うむ! この衣、動きやすくて良いな!」
俺はフェルに、インベントリにあった『聖女の普段着(未使用)』を着せていた。
シンプルな白いワンピースにエプロン姿だが、素材が『天蚕の糸』なので、物理防御力はドラゴンの一撃すら防ぐ。
銀髪がキラキラと輝き、看板娘としての破壊力は抜群だ。
「よし、オープンだ」
俺が扉の札を『営業中』にひっくり返すと、すぐに最初の客が現れた。
昨日、物件を紹介してくれた村長だ。心配して見に来てくれたらしい。
「おお、アレン君。開店おめでとう……って、なんじゃこりゃあ!?」
店に入った瞬間、村長が絶句した。
無理もない。外見はログハウスだが、内装は清潔なフローリングに、魔導ランプの柔らかな光が満ちている。棚には見たこともないほど透明度の高いガラス瓶が整然と並んでいた。
「村長、いらっしゃいませ。とりあえず喉が渇いてるでしょう? 試供品の水をどうぞ」
「あ、ああ。すまんな……」
村長は俺が渡したコップの水を一口飲み――カッ! と目を見開いた。
「こ、これは!? 身体の節々の痛みが……消えた!? それに、力が湧いてくるぞ!」
「ああ、それは近くの湧き水(※聖なる泉の水)ですよ。滋養にいいんです」
ただの水ではない。状態異常回復効果のある聖水だ。まあ、俺にとってはタダで汲める水だが。
「そ、そうか……。して、アレン君。この棚に並んでいる『回復薬』だが……これ、いくらなんじゃ?」
村長が震える手で、棚のポーションを指差す。
透き通るような青色の液体。不純物が一切ない『特級ポーション』だ。王都なら金貨1枚(約10万円)は下らない。
俺は少し考えてから答えた。
「うーん、材料はそこらで拾った薬草ですし……銅貨1枚(約100円)でどうでしょう?」
「は、はあぁぁぁぁッ!? 銅貨1枚!?」
村長が素っ頓狂な声を上げてのけぞった。
「ば、馬鹿を言うでない! こんな美しい薬、見たこともないぞ! 王都の行商人が売りに来る濁った薬ですら、銀貨5枚はするのに!」
「いえ、俺としては在庫処分みたいなものですから。それに、村の皆さんに健康でいてもらったほうが、僕も商売しやすいですし」
俺がにっこり笑うと、村長は脂汗を流しながら、財布から銅貨を叩きつけた。
「か、買う! あるだけ売ってくれ! 腰痛持ちの婆さんにも飲ませたいんじゃ!」
それから一時間後。
『アレン雑貨店』は、村始まって以来の大騒ぎになっていた。
「おい聞いたか!? 新しい店で、秘薬がタダ同然で売ってるぞ!」
「嘘つけ! ……って、うわあああ! じいちゃんの曲がった腰が治った!」
「俺の古傷も消えたぞ!」
噂は瞬く間に広がり、村中から人が押し寄せた。
「いらっしゃいませだぞ! 列に並ぶのだ!」
フェルが尻尾をブンブン振りながら、客の整理をしている。
その愛らしい姿と、時折漏れ出る「強者のオーラ」に、村の若者たちは顔を赤くしながら大人しく従っていた。
商品棚の商品は飛ぶように売れていく。
【丈夫な鎌】(銅貨5枚): 素材がミスリル合金。岩をも切り裂く切れ味で、農作業の効率が10倍になった。
【虫除けのお香】(銅貨1枚): 素材がマンドラゴラの葉。焚くだけで害虫どころか、森の魔物すら近寄らなくなった。
【美味しい水】(タダ): 飲むだけで疲労回復。
「あ、アレン様……これ、本当にこの値段でいいんですか?」
村の主婦たちが、恐縮しながら聞いてくる。
「ええ、もちろんです。今後ともご贔屓に」
俺は笑顔で応対しながら、心の中でガッツポーズをした。
(よしよし、いい感じで在庫が捌けてるな!)
俺のインベントリには、これらを作るための素材が何万個と余っている。むしろ使わないと持ち腐れだ。
村人たちが喜んでくれて、俺の財布も潤う。まさにWin-Winの関係だ。
だが、俺は気づいていなかった。
たまたま村に立ち寄っていた、王都の大商会の支店長が、その光景を青ざめた顔で見ていたことに。
「……ありえない。あのポーションの輝き、宮廷魔導師団が作る『ロイヤル・ポーション』以上の純度だぞ……? それを、銅貨1枚だと……!?」
支店長は震える手で商品を一つ購入すると、馬車に飛び乗った。
「王都の本店に知らせなければ! これは市場価格が崩壊するぞ! いや、あの方を囲い込めば、巨万の富が……!」
辺境の小さな雑貨店が、世界経済を揺るがす震源地になろうとしていた。
一方その頃、王都の武器屋。
「修理代が金貨5枚だと!? ふざけるな!」
勇者レオンがカウンターを叩いていた。
安物の鉄の剣は、昨日の戦闘ですでにボロボロだ。
「お客さん、これ以上は無理ですよ。使い方が荒すぎます。もっと高級な『魔剣』でも買ったらどうです?」
「くそっ、金さえあれば……!」
レオンは唇を噛み締めた。
以前なら、折れた剣は次の日には新品同様になっていた。それがどれだけ異常で、恵まれたことだったのか。
彼はまだ、その本当の意味を理解しようとしていなかった。
「……アレンの奴、どこに行きやがった。あいつさえ連れ戻せば……」
レオンの歪んだ執着心は、徐々に膨れ上がっていた。




