第38話 「北の果てが寒すぎたので『魔導コタツ』を作ったら、世界を救うのが面倒くさくなった」
「移動要塞・隠れ家号」は、極寒の空を突き進んでいた。
目的地である「奈落」まであと少し。しかし、その前に俺たちは最大の敵と戦っていた。
「……さ、寒いですわ……! 吐く息がダイヤモンドダストになりそうですの……」
エリザベートが毛布を三枚被り、ガタガタと震えている。
窓の外は猛吹雪。気温はマイナス50度を下回っているだろう。
「警告。外気温の低下により、機体各所の凍結を確認。このままでは、ポーションの瓶が割れて商品が全滅します」
「私の稼働オイルも固まりそう……。お父様、なんか温かいものちょうだい……」
ノアとイヴも動きが鈍い。
フェルに至っては、「寒すぎる、冬眠する」と言い残して丸くなってしまった。
「参ったな。暖房魔法石もフル稼働してるんだが、追いつかないか」
俺は棚を見た。商品である回復ポーションの中身がシャーベット状になりかけている。これでは売り物にならない。
「よし。暖房器具を新調しよう」
俺はインベントリをごそごそと漁り、とっておきの素材を取り出した。
【太陽神の核石】:古代遺跡の動力源。
【フレイム・フェンリルの毛皮】:フェルの換毛期に集めた抜け毛(最高級断熱材)。
【世界樹の板材】:剪定した枝を加工したもの。
「これらを組み合わせて……錬成!」
カッ!!
店内に暖かなオレンジ色の光が満ちる。
完成したのは、一見するとただの四角いテーブルに、フカフカの布団が掛かった家具――「コタツ」だった。
「こ、これはなんですの? テーブルに布団?」
「俺の故郷(前世)の伝統的な暖房器具、『コタツ』だ。まあ、入ってみな」
エリザベートが恐る恐る足を入れる。
「……あら? ……あぁぁぁ……これ……ダメですわ……」
彼女の表情が、一瞬でとろけた。
公爵令嬢としての気品もプライドも投げ捨て、彼女はズルズルと肩までコタツに潜り込んだ。
「あたたかい……まるで陽だまりの中にいるような……もう出られませんわ……」
「そんなに? 私も試してみる」
イヴが足を入れる。
「っ!? 警告、快適指数測定不能! ……あ~、これは極楽ね……」
イヴも即座に沈没。
「非効率です。局所的な暖房など……」
ノアも試しに入ってみて、即座にシステムダウン(寝落ち)した。
「どれどれ、俺も……」
俺も足を入れる。
瞬間、全身を包み込む絶対的な安心感と温もり。
これはただのコタツではない。『太陽神の核石』が発する遠赤外線が、細胞レベルでリラックス効果を与え、精神を強制的に「休日モード」にするのだ。
「……あー、もういいか。世界とか救わなくても」
「そうですわね師匠。ここが世界の中心でいいですわ……」
「ミカンない? お父様、ミカン剥いて」
最強の道具屋パーティ、ここに全滅。
この『魔導コタツ・魔王殺し(人をダメにする機能付き)』の前では、どんな英雄も無力だった。
数時間後。
店の外で「ドォン!」という衝撃音がした。どうやら目的地の上空に到着し、着陸したらしい。
『――到着シマシタ。ココガ「奈落」デス』
自動操縦のアナウンスが流れる。
窓の外には、世界を飲み込む巨大な闇の裂け目と、そこから溢れ出す異形の魔物たちの姿が見えるはずだ。
世界の危機だ。今すぐ出て戦わなければならない。
だが。
「……誰か見てくるか?」
俺はコタツの中から、首だけ出して言った。
「嫌ですわ。外、寒いですもの」
エリザベートが首を振る。
「私は充電中。省電力モードだから動けない」
イヴも動かない。
「Zzz……(スリープモード)」
ノアは寝ている。
「……我輩もパスだ」
フェルもコタツの中で丸まっている。
「だよなー。……じゃあ、明日から本気出すってことで」
「賛成ですわ」
こうして、世界滅亡のカウントダウンが進む中、俺たちは「コタツから出たくない」という理由だけで、初日の攻略を放棄したのだった。




