第37話 空の盗賊団に囲まれたが、うちの番犬(フェンリル)が吠えたら全員墜落した
「移動要塞・隠れ家号」が発進してから数時間。
俺たちは雲海の上を快適に航行していた。
「素晴らしい眺めですわ! まるで女神にでもなった気分!」
最初は怯えていたエリザベートも、今ではテラス(縁側)で紅茶を楽しみながら優雅に景色を眺めている。
「高度安定。気温、湿度ともに快適値を維持」
屋根の上では、メイド服の裾をなびかせたノアが周囲を警戒していた。
そんな平和な空の旅を、けたたましい警報音が破った。
「――警告。敵性反応多数。急速接近中」
ノアの声と同時に、雲の切れ間から無数の影が飛び出してきた。
それは、巨大な翼竜に跨った、荒くれ者の集団だった。
「ヒャッハー!! 見ろよ野郎ども! 空飛ぶ小屋だ!」
「丸太小屋が飛んでるなんて傑作だぜ! 中には金目のもんがたっぷりに違いねぇ!」
空を支配する無法者、「空賊団・レッドウイング」だ。
彼らは獰猛なワイバーンを操り、空を行く商船や飛行船を襲う悪名高い集団である。あっという間に数十騎に包囲されてしまった。
「おいそこの店主! 命が惜しければ積荷を全部置いていきな! さもなくば撃ち落とすぞ!」
リーダー格の男が、魔法拡声器で怒鳴ってくる。
俺はエプロンで手を拭きながら、窓を開けて顔を出した。
「いらっしゃいませー! 『ドライブスルー』のお客様ですか?」
「あ? ドライブ……なんだって? ふざけてんのか!」
「ご注文は何にします? 空の上は寒いから、ホットコーヒーとサンドイッチのセットがおすすめですよ」
「ナメてんじゃねぇぞ! 野郎ども、やってしまえ!」
リーダーの合図で、空賊たちが一斉に魔法弾や矢を放ってきた。
ヒュンヒュンヒュン!
雨のような攻撃が店に降り注ぐ……はずだった。
「迎撃システム起動。対空防御、開始します」
屋根の上のノアが指を鳴らす。
瞬間、店の周囲に展開されていた透明な障壁が、すべての攻撃を弾き返した。
カンカンカンッ!
矢が折れ、魔法が霧散する。
「なっ、魔法障壁だと!? このボロ小屋、軍艦並みの装備をしてやがるのか!?」
「姉さん、私も混ぜて。運動不足で体がなまってたの」
縁側からイヴが飛び出した。
彼女は空中で華麗に回転すると、背負っていた巨大な「対空ガトリング砲(掃除機改造)」を構えた。
「掃除の時間よ、ハエども!」
ズダダダダダダダダダダッ!!!
青白い魔力弾の嵐が空賊たちを襲う。
翼を撃ち抜かれたワイバーンたちが、悲鳴を上げてきりもみ回転しながら落ちていく。
「うわあああ! なんだあのメイドは!?」
「逃げろ! こいつらヤバいぞ!」
空賊たちがパニックに陥る中、店の中で昼寝をしていたフェルが、うるさそうに片目を開けた。
「……騒がしいな。主との安眠を妨げる羽虫め」
フェルが窓から顔を出し、大きく息を吸い込んだ。
そして。
「グルルルルル……ワオオオオオオオオオオンッ!!!」
伝説の魔獣・フェンリルの「覇気の咆哮」。
その声は衝撃波となって大気を震わせ、ワイバーンたちの鼓膜と平衡感覚を直撃した。
「ギャアアッ!?」
「ワ、ワイバーンが気絶したぁぁぁ!?」
格下の魔獣であるワイバーンたちが、恐怖のあまり空中で白目を剥いて失神。
騎乗していた空賊たちは、支えを失って真っ逆さまに落下していった。
「「「助けてくれぇぇぇぇ!!」」」
……シーン。
空に静寂が戻った。
「あーあ、全員落ちちゃった」
俺は落下していく彼らを見下ろしてため息をついた。
「エリザベート、カゲロウ。落下地点に先回りして、彼らを回収してきてくれ」
「え? 助けるんですの?」
「当然だ。怪我をしているだろうからな」
俺はニヤリと笑った。
「『最高級ポーション』と『ワイバーン修理キット』を高値で売りつけるチャンスだ」
数十分後。
地上で目を覚ました空賊たちは、目の前に並べられた請求書を見て、別の意味で悲鳴を上げることになった。
彼らはその後、アレンの店の「下請け運送業者」として、心を入れ替えて働くことになったという。




