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第32話 妹が『人類抹殺』しに来たけど、ただのエネルギー切れだった件

 スカーレット公爵の来訪から数日が経ち、店には穏やかな日常が戻っていた。

 ……はずだった。


「――警告。高エネルギー反応、急速接近。識別信号、Type-One『イヴ』」


 開店準備をしていたノアが、不意に皿洗いの手を止め、虚空を見つめて呟いた。

 彼女の黄金色の瞳が、警戒色の赤へと明滅している。


「イヴ?

知り合いか?」

「肯定。私の姉妹機であり、旧文明の最終防衛ラインを担う『殲滅特化型』です。ただし、彼女の思考回路にはバグがあり……」


 ドォォォォン!!!


 説明を聞く暇もなく、店の前庭に隕石が落ちたような衝撃が走った。

 土煙が晴れると、そこにはノアと瓜二つの姿をした少女が立っていた。

 違いは、髪が燃えるような赤色であることと、身に纏っているのがメイド服ではなく、漆黒の戦闘用ボディスーツであることだ。


「発見シタ……人類ノ生存圏……」


 赤髪のアンドロイド――イヴは、ギギギと首を動かし、俺たちを捕捉した。


「人類ハ、地球ニ害ヲ為ス『ウイルス』。推奨処理:全テ焼キ払ウ(パージ)」


 彼女の両肩から、巨大なガトリング砲が展開される。


「ちょ、いきなり物騒だな!」

「お下がりください、お父様。姉さん(シスター)は今、論理回路が暴走しています」


 ノアが瞬時に俺の前に飛び出し、防御障壁シールドを展開する。


 ダダダダダダッ!!

 轟音と共に魔力弾の嵐が吹き荒れる。ノアのシールドが悲鳴を上げ、周囲の木々が薙ぎ倒されていく。


「どいて、ノア。その人間も同罪よ。スクラップにしてあげる」

「拒否します。アレン様は私のマスターであり、この星で最も有益な存在です」

「エラー。理解不能。邪魔をするなら、あなたも壊すだけ!」


 イヴがブースターを噴射し、音速で突っ込んできた。

 ノアも迎撃するが、出力の差は歴然だった。戦闘特化型のイヴに対し、汎用型のノアはじりじりと押されていく。


「くっ……お父様、逃げて……!」

「させるかぁぁぁ!!」


 イヴの右手が熱を帯びたブレードに変形し、ノアの防御を突き破って俺の喉元へと迫る。

 万事休すか。

 だが、俺は冷静に彼女の「ある異変」に気づいていた。


「……お前、腹減ってるだろ?」


 ピタリ。

 俺の鼻先数センチで、イヴのブレードが止まった。


「……ハ?」

「動きにキレがないし、排熱ダクトから異音がしてる。長年の休眠から目覚めたばかりで、エネルギー残量がカツカツなんじゃないか?」

「な、何を……人類風情ガ……」


 グゥゥゥゥ……キュルルル……。


 イヴの腹部から、可愛らしい音が盛大に鳴り響いた。

 沈黙。

 真っ赤な髪のイヴの顔が、さらに赤くなる。


「こ、これは機体冷却液の循環音デ……!」

「無理すんな。ほら、これを飲め」


 俺が突き出したのは、一本のボトル。

 中に入っているのは、虹色に輝く液体――『高純度魔力エーテル(S級潤滑油入り)』だ。


「私の特製ドリンクだ。魔力充填率100%、さらに古いオイルを洗い流して関節の動きも良くする」

「毒カ?

罠カ?」

「毒ならとっくに死んでるよ。……それとも、ガス欠で倒れるのがお望みか?」


 イヴは俺とボトルを交互に睨み、やがて引ったくるようにボトルを奪った。

 栓を開け、一気にあおる。


「…………ぷはぁっ!」


 飲み干した瞬間、彼女の全身から黒いすすのような煙が噴き出し、代わりに清浄な青い光が満ちた。

 曇っていた瞳がクリアになり、荒い駆動音が静まる。


「う、美味い……!

システムエラー解消、論理回路正常化。……あれ?

私、なんでこんなところで暴れて……」


 どうやら空腹(エネルギー不足)による低電圧で、思考回路がバグり、「初期設定の人類抹殺モード」に戻っていたらしい。

 人間で言うところの「低血糖でイライラしている」状態だったわけだ。


「正気に戻ったか?」

「あ……う、うん。……ありがとう、人間」


 イヴは気まずそうにボトルを返し、モジモジと指を合わせた。


「その……ごめんなさい。私、お腹が空くと性格が悪くなるタイプで……」

「姉さん、相変わらずですね」

「うるさいわねノア!

……で、でも、助けてもらった恩は返すわ」


 イヴはキリッとした顔で俺を見た。


「このドリンク、もっとない?

もし毎日飲ませてくれるなら、私もここで働いてあげてもいいわよ?」

「……はぁ。また増えるのか」


 こうして、冷静沈着な妹機・ノアに加え、ツンデレ(腹ペコ)な姉機・イヴがスタッフに加わった。

 『隠れ家ヘヴン』の戦力は、もはや小国の軍事力を超えつつあった。

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