表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/30

第3話 裏山で捨て犬を拾ったら、伝説のフェンリルだった件

『アレン雑貨店』の開店準備は順調だ。

 建物は完成した。あとは棚に並べる「商品」が必要だ。


 俺は店の裏手に広がる『魔の樹海』へと足を踏み入れた。

 村人たちは「あそこには恐ろしい魔物が住んでいる」と恐れているらしいが、俺の【自動収集】があれば関係ない。


「範囲指定:半径1キロ。対象:薬草、キノコ、果実――【収集開始】」


 森を散歩するように歩くだけで、視界の端にポップアップログが滝のように流れる。


 『特級薬草を回収しました』

 『マヒマヒダケを回収しました』

 『力の木の実を回収しました』


「よしよし。この辺の薬草なら、風邪薬から万能薬まで作れそうだな」


 鼻歌交じりに進んでいると、ふと、血の匂いが鼻をついた。

 草むらをかき分けると、そこには一匹の「犬」が倒れていた。


 全身が美しい銀色の毛並みで覆われているが、腹部に深い裂傷がある。

 大型犬……いや、狼か?


「グルルゥ……ッ」


 俺が近づくと、狼は弱々しく牙を剥いた。

 その瞳は知性的で、どこか誇り高い光を宿している。


「大丈夫だ、何もしない。怪我してるのか?」


 俺はしゃがみ込み、インベントリからポーションを取り出した。

 勇者パーティー時代、俺が水代わりに生成していた『特製ポーション』だ。


「飲むのは辛そうだな。直接かけるか」


 バシャッ。


 俺は惜しげもなく液体を傷口にぶっかけた。

 普通ならポーションは一滴ずつ大事に使うものだが、俺には無限にある。


 シュワワワ……!

 淡い光とともに、ぱっくりと開いていた傷口が一瞬で塞がった。それどころか、毛並みの艶まで良くなっている。


「キャウン!?」


 狼が驚きの声を上げ、自分の腹を見た。

 そして信じられないものを見る目で、俺と空の瓶を交互に見つめている。


「よかった、治ったな。腹も減ってるか?」


 俺はついでに、昨晩の残りの『干し肉』を取り出した。

 ちなみにこれは、Sランクモンスター『グランド・バイソン』の肉を燻製にしたもので、一口食べれば瀕死の兵士も走り出す滋養強壮アイテムだ。


 狼は警戒していたが、匂いを嗅いだ瞬間、目の色を変えた。

 ガツガツッ! と勢いよく食らいつく。


「はは、いい食いっぷりだ。じゃあな、達者で暮らせよ」


 俺は頭を一度だけ撫でてやり(すごいモフモフだった)、その場を立ち去ろうとした。

 ペットを飼う余裕はまだないし、野生動物は自然に帰るのが一番だ。


 だが。


「――待て、人間」


 背後から、凛とした鈴のような声が聞こえた。

 振り返ると、そこには狼はいなかった。


 代わりに、銀色の長い髪をなびかせた、絶世の美少女が立っていた。

 年齢は15、6歳くらいか。頭には狼の耳、お尻からはフサフサの尻尾が生えている。

 そして、なぜか全裸だった。


「……え?」

「我は誇り高き銀狼の眷属、フェンリルだ。この傷は邪竜との戦いで負ったものだが……まさか、失われた秘薬『エリクサー』を家畜の傷薬のように使い、あまつさえ『神獣の干し肉』を振る舞うとは」


 少女――フェンリルは、顔を赤らめながら俺を指差した。


「お、お主、何者だ? ただの人間ではないな?」


「いや、ただの雑貨屋だけど……」

「雑貨屋だと!?」


 彼女は驚愕に目を見開いた後、スッと表情を引き締めた。

 そして、その場にひざまずいた。


「我が命を救った礼、そしてその底知れぬ力……気に入った! 我、フェンリルは、今この時よりお主をあるじと認めよう!」


「はい?」

「名はフェルだ! さあ主よ、我を好きにするがいい! 番犬でも抱き枕でもなんでもなるぞ!」


「いや、とりあえず服を着てくれ」


 こうして。

 最強の道具屋『アレン雑貨店』に、伝説の魔獣フェンリルの看板娘(兼、警備員)が加わることになった。




 一方その頃、王都の冒険者ギルド。


「おい見ろよ、あれ『光の剣』のレオンだぜ」

「なんか装備がショボくなってないか?」

「聞いたか? 昨日の依頼、ゴブリンの群れ相手に失敗したらしいぞ」


 周囲のひそひそ話に、レオンはギリッと歯を食いしばった。

 新品の鉄の剣はすでに刃こぼれし、安物のポーションは苦いだけで傷の治りが遅い。


「クソッ……あのアレンの野郎、呪いでもかけていきやがったな……!」


 自分の実力不足を認めたくないレオンは、全ての不調をアレンのせいにすることで精神を保っていた。

 だが、現実は非情だ。ギルドの受付嬢が、冷ややかな声で告げる。


「『光の剣』の皆様。度重なる依頼失敗と装備の破損により、SランクからAランクへの降格処分が検討されています」


「な、なんだとォ!?」


 勇者の栄光に、亀裂が入り始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ