第29話 勇者が「禁断の力」を手に入れて戻ってきたが、ウチのメイドが強すぎた
古代のアンドロイド・ノアが店員(という名の破壊兵器)として加わってから数日。
『隠れ家』の裏庭では、今日も平和な破壊音が響いていた。
「お父様、お客様にお茶を出す練習をしました」
「おう、ありがとう……って、なんでカップが粉々になってるんだ?」
「握力を制御できませんでした。陶器の強度が不足しています。チタン合金製の茶器の導入を提案します」
「客の歯が折れるわ!」
俺がノアにツッコミを入れていると、フェルが鼻をひくつかせた。
「主よ、またあの『腐った臭い』が近づいてくるぞ。しかも今度は、少し焦げ臭いな」
言い終わるのと同時だった。
ドォォォォン!!
店の入り口付近で爆発が起き、並んでいた客たちが悲鳴を上げて逃げ惑う。
「ハッハッハ! 見つけたぞアレン! 今度こそ逃さん!」
土煙の中から現れたのは、ボロボロの囚人服を纏い、目は血走り、異様な紫色のオーラを放つ勇者アルヴィンとその一行だった。
「アルヴィン? お前ら、王都の地下牢にいたはずじゃ……」
「へっ! 謎の商人が『お前たちの復讐を手伝ってやる』と出してくれたのさ! 見ろ、この力を!」
アルヴィンが掲げたのは、どす黒い鼓動を刻む「呪いの魔剣」だった。
マリアンヌもまた、不気味な骸骨の杖を握りしめている。
「アレン! あんたに恥をかかされた恨み、この『禁忌のアーティファクト』で晴らしてあげるわ! この店も、そのふざけた仲間たちも、全部消し炭にしてやる!」
アルヴィンが魔剣を振り上げる。
そこから放たれたのは、周囲の空間を腐食させるほどの強力な闇の波動だった。
「エリザベート! フェル! 防御を……」
俺が指示を出そうとした時、俺の前にスッと白い影が割り込んだ。
「――警告。マスター・アレンへの敵対行動を確認」
ノアだ。
彼女はエプロンのスカートを翻し、無表情のままアルヴィンの前に立ちはだかった。
「なんだこの人形は? どけっ! 俺の魔剣の錆になりたいか!」
「対象:不法投棄された産業廃棄物(勇者一行)。推奨処理:完全焼却」
ノアの瞳が、黄金色から深紅色へと変わる。
彼女が右手をかざすと、手のひらがガシャン! と展開し、真っ黒な銃口が現れた。
「出力限定解除。対害虫用殲滅モード起動」
ヒュン、という音と共に、空間が歪む。
アルヴィンが放った「闇の波動」が、ノアの周囲で見えない壁に弾かれ、霧散した。
「な、なんだと!? 俺の禁忌の力が……効かない!?」
「エネルギー反応、微弱。ライターの火程度です」
ノアは冷淡に告げると、至近距離で波動砲をチャージした。
「そ、そんな……待て、話せばわかる! 俺は勇者だぞ!?」
「問答無用。さようなら、ゴミさん」
ズドンッ!!!!
純白の閃光が、森を一直線に貫いた。
轟音と共に勇者アルヴィンたちは空の彼方へ吹き飛ばされ、キラリと光る星になった。
……手加減はしてくれたようで、命までは奪っていないようだが、彼らが持っていた「禁忌のアイテム」は分子レベルで消滅していた。
静寂が戻った店先。
ノアは銃口から立ち上る煙をフゥーッと吹き、元の可愛い手首に戻すと、俺に向かってクルリと振り返った。
「掃除完了しました、お父様。これで店内は清潔です」
「……お前、強すぎない?」
「お褒めに預かり光栄です」
スカートの裾をつまんで一礼するノア。
その背後では、一部始終を見ていたエリザベートが、わなわなと震えていた。
「くっ……! フェルだけでなく、こんな強力なライバルが現れるなんて! でも負けませんわ! 師匠の隣に立つのは、一番弟子のわたくしですのよーッ!」
「我輩はどうでもいいぞ。主よ、腹が減った」
勇者の復讐劇は、わずか30秒で幕を閉じた。
だが、アルヴィンが口にした「謎の商人」という言葉だけが、俺の心に小さく引っかかっていた。




