第28話 拾った古代兵器が、俺を『お父様』と呼ぶんだが
地下施設の最奥に鎮座する、巨大なガラスのカプセル。
俺たちが息を呑んで見守る中、カプセルを満たしていた青い保存液が急速に排出されていく。
『凍結睡眠解除。個体名「Type-Zero:ノア」、起動シークエンスへ移行します』
無機質なアナウンスと共に、ガラスが音もなくスライドして開いた。
中から現れたのは、一人の少女だった。
雪のように白い髪、透き通るような白い肌。
見た目は10代前半の可憐な少女だが、その関節部分は精巧な機械仕掛けになっており、淡い青色の光脈が走っている。
人間ではない。間違いなく、この施設が作り出した「自動人形」だ。
「……んっ……」
少女の長いまつ毛が震え、ゆっくりと瞼が開かれた。
そこにあったのは、感情の色が見えない、無機質な黄金色の瞳。
彼女は視線を巡らせ、フェル、エリザベート、そして最後に俺の顔を見て、ピタリと止まった。
「――スキャン完了。生体IDを確認。管理者、アレン様」
少女はカプセルからふわりと浮き上がり、音もなく床に降り立つと、スカートの裾をつまんで優雅に一礼した。
「おはようございます、お父様」
「「「ぶふぉっ!!??」」」
俺たち三人の声が重なった。
「お、お、お父様ですってぇぇぇ!?」
エリザベートが一番に反応した。顔を真っ赤にして、俺と少女を交互に指差す。
「師匠! いつの間にこんな大きな隠し子を!? しかも機械仕掛けだなんて、どういう趣味嗜好ですの!?」
「いや待て、誤解だ! 俺も今初めて会ったんだよ!」
「主よ、ついに種族の壁を超えたか。流石だ」
「フェルも変な納得の仕方をするな!」
俺が慌てていると、少女――ノアが首をかしげた。
「訂正。アレン様は私の起動者であり、この施設の全権を握る新たな管理者です。よって、私の創造主も同然。便宜上『お父様』と呼称します。不都合でしょうか?」
「大いに不都合だ! せめて『店長』にしてくれ!」
とりあえず、彼女をこのまま地下に放置するわけにもいかず、俺たちは店(地上)に戻ることにした。
「……ここが、お父様の拠点ですか。木造建築、耐熱・耐衝撃性ともに基準値以下。非効率的です」
店に戻るなり、ノアは辛辣な評価を下した。
「うるさいな。住めば都だ」
「理解不能です。しかし、お父様の命令は絶対。私もここで業務をサポートします」
ノアは「お手伝いモード」と呟くと、エプロンを(どこからか取り出して)装着した。
「ちょうど開店時間だ。エリザベート、この子に仕事を教えてやってくれ」
「むぅ……わかりましたわ。いいこと? あなたは新人なのだから、わたくしの指示に従うのですわよ!」
「了解。一番弟子(自称)のエリザベート様」
「(自称)は余計ですわ!」
こうして、古代の最終兵器がアルバイトとして加わった『隠れ家』の営業が始まった。
カランカラン♪
「いらっしゃい! 今日のおすすめは……」
最初の客が入ってきた。筋肉隆々の冒険者だ。
「おい、いつものポーションくれや。あと、そこの新入り! 肩が凝ってるからマッサージ頼むわ」
「……マッサージですね。了解しました」
ノアが無表情で冒険者の背後に立つ。
「肩こりの原因は、筋肉の過度な緊張。対象部位を物理的に粉砕し、再生させる治療法を推奨」
「は? 粉砕って……」
ノアの右手が、ガシャコン! と変形し、高速回転するドリルと化した。
「――治療開始」
「ギャアアアアアアアッ!!!」
冒険者の悲鳴と、店の壁がぶち抜ける音が、辺境の森に響き渡った。
「……ノア、お前クビな」
「理解不能。治療は成功しました(対象は気絶中)」
俺の平穏なスローライフは、この古代兵器の登場によって、完全に過去のものとなったのだった。




