表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

26/37

第26話 お客様は神様です。たとえ人類の敵(魔族)であっても

 営業再開から数日。

 俺の店『隠れ家ヘヴン』は、戦場のような忙しさだった。


「はい、そちらの騎士団の方はポーション3ダースですね! お代は前払いで!」

「そこの商人! 列を乱すならフェルに食べさせますわよ!」


 エリザベートが意外な才能を発揮していた。

 公爵令嬢としての統率力と計算高さを活かし、荒くれ者の冒険者たちを見事にさばいているのだ。

 「私が一番弟子の看板娘ですわ!」と張り切る彼女のおかげで、俺は調合に専念できていた。


 だが、その平穏は唐突に破られた。


 ゾワリ。

 真夏だというのに、店内の気温が一気に氷点下まで下がったような悪寒。

 並んでいた客たちが次々と泡を吹いて気絶し、生き残った高ランク冒険者たちもガタガタと震え出した。


「な、なんだこのプレッシャーは……!?」

「ま、魔王軍だ……!!」


 客たちが左右に割れ、道ができる。

 その道を悠然と歩いてきたのは、漆黒のドレスに身を包み、背中からコウモリのような翼を生やした妖艶な美女だった。

 魔王軍四天王の一角、「氷結の魔女・セシリア」。単騎で一国を滅ぼせると言われる化け物だ。


「主よ、殺るか?」

 フェルが喉を鳴らし、エリザベートも杖を構えて臨戦態勢に入る。

「下がりなさい! ここを通すわけにはいきませんわ!」


 一触即発の空気。

 しかし、俺はカウンターの中から冷静に声をかけた。


「いらっしゃいませ。……で、ご注文は?」


 セシリアがピタリと足を止める。

 彼女は鋭い視線で俺を見つめ、やがて深々とため息をついた。


「……勇気ある店主ね。私が怖くないの?」

「金払いのいい客なら、神様でも悪魔でも歓迎するよ。うちはそういう店だ」

「ふふ、気に入ったわ」


 彼女はカウンターに肘をつき、困ったような顔で言った。


「実はね、うちのボス(魔王)が最近、ひどい腰痛なのよ」

「腰痛?」

「ええ。長年『魔王の玉座』に座りっぱなしでしょう? あの椅子、見た目はカッコいいけど人間工学を無視した石造りだから、腰への負担が凄まじいのよ。湿布もマッサージも効かなくて、最近じゃ『痛いから勇者と戦いたくない』とか言い出して……」


 店内が静まり返る。

 魔王軍侵攻の理由が「腰が痛いから休止中」だなんて、国家機密レベルの情報だ。


「なるほど、慢性的な凝りと血行不良か。なら、これだ」


 俺は棚から、ドロリとした緑色のペーストが入った瓶を取り出した。

 『世界樹の樹液とマグマ・スライムの粘液を混ぜた温感湿布』だ。


「これを患部に塗ってくれ。血行を促進しつつ、筋肉を細胞レベルで再生させる。ついでに精神安定効果もあるから、よく眠れるようになるはずだ」

「へぇ……。ただの湿布に見えるけど、信じていいの?」

「効果がなければ返金する。ただし、代金は高いぞ」


 セシリアは怪しげに瓶を受け取ると、懐から「闇色の巨大な結晶」を取り出し、カウンターにゴロリと置いた。


「『ダークマターの結晶』よ。人間の国じゃ手に入らないS級素材。これでお釣りが来るかしら?」

「……十分すぎるな。毎度あり」


 俺がにこやかに受け取ると、セシリアは満足げに微笑み、翼を広げた。


「助かったわ。もしこれが効いたら、次は『魔王軍公認御用達』にしてあげる。……あ、それと」

 彼女は去り際に、気絶している客たちを一瞥した。

「この店の中にいる間は、休戦協定を結んであげる。ここでは人間も魔族もただの『客』よ」


 そう言い残し、彼女は突風と共に消え去った。


 残されたのは、国宝級の闇の結晶と、呆然とする客たち。

 そして。


「……し、師匠」

 エリザベートが震える声で尋ねる。

「あ、あの『ダークマター』、魔導兵器の核になる超危険物ですわよ? 何に使うおつもりで?」

「ん? ああ、これよく燃えるんだよな。かまどの燃料にちょうどいい」

「「「もったいなさすぎるだろぉぉぉッ!!!」」」


 こうして、俺の店は「魔王軍ですら手を出せない中立地帯」として、その悪名をさらに轟かせることになったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ