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第24話 「その薄汚い浮浪者は誰ですの?」

 その日、王立魔法学院の大講堂は、静寂と熱気に包まれていた。

 俺の講義「素材の声を聞く錬金術・応用編」には、学院の生徒だけでなく、噂を聞きつけた宮廷魔導師や騎士団長クラスの重鎮までが聴講に来ていたからだ。


「――というわけで、ドラゴンゾンビの毒爪は、粉末にして聖水と混ぜれば、逆に強力な『再生促進薬』になる」

 俺が黒板にサラサラと要点を書くと、数百人の生徒が一斉にメモを取る音が響く。


「質問は?」

 最前列に陣取っていたエリザベートが、ビシッと手を挙げた。

「はい、師匠! その配合比率は黄金比率(1:1.618)でよろしくて?」

「正解だ。よく予習してるな、エリザベート」

「えへへ……光栄ですわ!」


 彼女が嬉しそうに頬を緩ませた、その瞬間だった。


 バーーーーーン!!


 講堂の重厚な扉が、乱暴に蹴破られた。

 静謐な空気が一瞬で凍りつく。

 入り口に立っていたのは、泥だらけの鎧、手入れされていないボサボサの髪、そして異臭を放つ薄汚い三人組――勇者アルヴィンたちだった。


「見つけたぞ、アレンッ!!」


 アルヴィンが講堂の中心に向かって、汚れた指を突きつける。


「こんな所に隠れていやがったのか! 探したぞ、この『荷物持ち』が!」

「……は?」


 俺はチョークを止め、呆気にとられた。

 彼らはここがどこで、俺が今何をしているのか、全く理解していないようだ。


 マリアンヌがヒステリックに叫ぶ。

「ちょっとアレン! 迎えに来てあげたのに、その態度はなによ! さっさと荷物をまとめてこっちに来なさい! 私たちのポーション係にしてあげるって言ってるのよ!」

「そうとも! 俺たちの慈悲に感謝して泣いて喜べ!」


 重戦士ログも鼻息荒く同意する。

 講堂内が、ざわ……と不穏な空気に包まれた。

 だが、それは勇者たちが期待した「アレンへの嘲笑」ではない。


 数百人のエリート生徒、宮廷魔導師、騎士団長たちから放たれる、「明確な殺意」だった。


「……あの、君たち。誰?」

 俺が素で尋ねると、アルヴィンは顔を真っ赤にした。


「ふざけるな! 勇者アルヴィンだ! 世界を救う英雄だぞ!」

「英雄? ……おい、衛兵。この不審者たちはなんだ?」


 俺が視線を送ると、エリザベートが優雅に立ち上がった。

 彼女は扇子を広げ、ゴミを見るような冷徹な瞳で勇者たちを見下ろした。


「……お黙りなさい、下賤な者たち」


 その一言には、公爵令嬢としての圧倒的な威圧感が込められていた。


「ここは神聖なる学問の府。そして、教壇に立たれているのは、国王陛下より『国宝級の人材』と認定されたアレン先生ですわ。あなたたちのような薄汚い浮浪者が、土足で踏み込んでいい場所ではありませんのよ?」


「ふ、浮浪者だと!? 俺は勇者だぞ!?」

「勇者? あら、聞いたことがありませんわね。最近はドブネズミでも勇者を名乗りますの?」


 エリザベートの挑発に、生徒たちも一斉に立ち上がる。


「アレン先生を侮辱するとは何事だ!」

「先生の授業の邪魔だ! つまみ出せ!」

「『荷物持ち』だと? 先生が生み出すポーション一滴の価値も知らないのか、この無知蒙昧どもが!」


 四方八方からの罵倒と、エリート魔導師たちの魔力プレッシャーを受け、アルヴィンたちはタジタジと後退りする。


「な、なんだこいつら……!? おいアレン、なんとか言え! お前は俺たちの仲間だろ!?」


 アルヴィンが助けを求めるように俺を見た。

 俺はため息をつき、冷淡に告げた。


「仲間? 勘違いするな。お前たちが言ったんだろ。『お前の拾ってくるゴミなんか必要ない』って」


 俺はインベントリから、一本のポーションを取り出した。

 かつて彼らに飲ませていた、Sランク素材たっぷりの特製ドリンクだ。


「俺は今、俺の価値を理解してくれる人たちと、最高に楽しい時間を過ごしている。お前たちの入る隙間なんて、ミジンコほども残ってないんだよ」


「そ、そんな……」

「マリアンヌ、お前が欲しがってた『世界樹の朝露』もここにあるが……これは今日、頑張った生徒へのご褒美だ」

「わぁっ! 欲しいです!!」


 俺が生徒たちに小瓶を投げると、歓声が上がる。

 マリアンヌはその光景を、絶望的な顔で見つめることしかできなかった。


「主よ、もう我慢ならん。食っていいか?」

 袖の陰から、フェルが殺気をむき出しにする。


「いや、フェル。汚いものを食べると腹を壊す。……衛兵! この不法侵入者たちを叩き出せ!」


「「「御意!!!」」」


 駆けつけた王宮騎士団によって、勇者パーティは地面に組み伏せられた。


「は、離せ! 俺は勇者だぞ!?」

「不敬罪で連行する! 地下牢で頭を冷やせ!」


 ズルズルと引きずられていくかつての仲間たち。

 その情けない背中を見送りながら、俺は講義を再開した。


「……さて、邪魔が入ったな。どこまで話したっけ?」

「『不要な不純物は取り除く』ところからですわ! 先生!」


 エリザベートがニッコリと笑う。

 俺もまた、苦笑しながらチョークを握り直した。


 不純物は排除された。これで、本当の意味で俺の新しい人生が始まるのだ。

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