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第21話 「私が一番だと証明しますわ!」公爵令嬢の華麗なる挑戦

 雑草からエリクサーを生成した「伝説の講義」から数時間。

 俺がフェルを連れて廊下を歩いていると、モーゼの十戒のように生徒の波が割れ、熱っぽい視線が注がれるようになっていた。


「アレン先生! 今度の講義、絶対受講します!」

「先生、僕の鍋とも対話してください!」


 やれやれ、目立つのは好きじゃないんだが。

 俺がフェルと顔を見合わせて苦笑した、その時だった。


「――お待ちなさい!!」


 凛とした、だが棘のある高い声が廊下に響き渡った。

 生徒たちがサッと青ざめて道を空ける。現れたのは、燃えるような真紅のドレスを制服風に着崩し、縦ロールの金髪を優雅に揺らす美少女だった。

 彼女の背後には、取り巻きの女子生徒が数名控えている。


「あなたは……?」

「お初にお目にかかりますわ、庶民の『特別講師』さん。わたくしはエリザベート・フォン・スカーレット。この国の宰相の娘にして、学院始まって以来の天才と呼ばれている者ですわ」


 エリザベート。その名は俺も聞いたことがある。

 「紅の薔薇」の異名を持つ公爵令嬢。入学試験で歴代最高得点を叩き出し、将来の宮廷筆頭魔導師と噂される才女だ。


 彼女は扇子で口元を隠しながら、俺を値踏みするように睨みつけた。


「噂は聞きましたわ。なんでも、教科書を無視したデタラメな手順で生徒を惑わせているとか。雑草でエリクサー? フン、どうせ事前の仕込みか幻術でしょう」

「いや、あれは本当にただの……」

「言い訳は無用ですわ! 学院の秩序を守るため、このわたくしがあなたの化けの皮を剥いで差し上げます!」


 彼女はビシッと俺に扇子を突きつけた。


「錬金勝負ですわ! 課題は『宝石の生成』。ただの石ころを、より美しく、より高価な宝石に変えた方が勝ち。負けた方は学院を去る……それでよろしくて?」


 廊下がどよめいた。

 宝石生成は、物質の構成要素を根本から組み替える高等技術だ。


「受けて立ちますか? それとも逃げます?」

「……わかった。俺が負けたら大人しく田舎に帰るよ。でも、もしあんたが負けたら?」

「ありえませんわ! もし万が一、わたくしが負けたら……なんでも言うことを聞いて差し上げます!」


 売り言葉に買い言葉。こうして、中庭で緊急の「公開授業」が始まった。


 先攻はエリザベート。

 彼女は純度の高い水晶の原石を取り出し、複雑な魔法陣を描き始めた。

「炎の精霊よ、その赤き情熱を宿せ……『ルビー・トランスミュート』!」

 膨大な魔力が渦を巻き、数分後、彼女の手のひらには見事な「鳩のピジョン・ブラッド」色のルビーが輝いていた。


「おおおお! さすがエリザベート様!」

「傷一つない最高級品だ!」


 彼女は勝ち誇った顔で俺を見た。

 「どうです? 市場価格で金貨100枚は下りませんわ」


「なるほど、綺麗な赤だ。……じゃあ、次は俺だな」


 俺は地面を見渡し、焚き火の跡から黒ずんだ「木炭」のかけらを拾い上げた。


「は? 木炭? ゴミ拾いはお得意のようですけれど、そんなもので何ができるとおっしゃるの?」

「炭素があれば十分だ。工程は……圧縮、再構築、硬度固定」


 俺は木炭を指先で軽く弾いた。

 スキル【錬金】発動。

 イメージするのは、炭素原子の結合を極限まで密にした、地上で最も硬く輝く物質。


 ――キィン。


 澄んだ音と共に、俺の手元から爆発的な輝きが溢れ出した。

 あまりの眩しさに、エリザベートが「きゃっ」と目を手で覆う。


 光が収まった時、俺の指先にあったのは、親指大の巨大な「ダイヤモンド」だった。

 しかもただのダイヤではない。内部から魔力を放ち、七色に煌めく『精霊石エレメンタル・ダイヤ』だ。


「な……っ!?」

 エリザベートが言葉を失い、ルビーを取り落とす。

 俺が作ったダイヤの輝きの前では、彼女のルビーさえも霞んで見えた。


「も、木炭が……ダイヤモンドに……? しかも、これほどの純度は王家の宝物庫にだって……」

「炭素の配列を変えただけだよ。はい、これあげる」

「へ?」


 俺はダイヤを放り投げた。

 彼女は慌ててそれを両手でキャッチする。


「勝負に使った素材だし、俺には必要ないから。綺麗な赤もいいけど、あんたのその金髪には、透明な輝きの方が似合うんじゃないか?」

「あ……う……」


 エリザベートの顔が、自分の作ったルビー以上に真っ赤に染まった。

 彼女はダイヤを胸に抱きしめ、プルプルと震えだす。


「こ、こ、今回はわたくしの負けを認めてあげますわ! でも勘違いしないでくださいまし! わたくしはまだ、あなたの実力を完全に認めたわけではありませんのよーーっ!!」


 捨て台詞を残し、彼女は全速力で走り去っていった。

 その背中は、どこか嬉しそうに見えたのは気のせいだろうか。


「……あれ、もしかして『なんでも言うことを聞く』って約束、反故にされたか?」

「主よ、あの雌、あとで絶対面倒くさいことになるぞ」

 フェルが呆れ顔で、去りゆく公爵令嬢を見送るのだった。

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