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第20話 教科書通りに作ったら「非効率」だと言われたので、雑草を適当に煮込んだら『神の霊薬(エリクサー)』ができてしまった件

 王立魔法学院の第一錬金実験室。

 階段状になった教壇には、選抜されたエリート生徒たち50名がずらりと座っていた。

 彼らの視線は、教壇に立つ俺――アレンに集中している。その多くは懐疑的だ。


「あれが特別講師? ただの優男じゃないか」

「荷物持ち上がりの平民だって噂よ」

「アレン様のお店の噂は聞いているけど、まぐれじゃないの?」


 ヒソヒソ話が聞こえてくる。

 そんな空気を代弁するように、学院の錬金術主任教授であるガレンが進み出てきた。銀縁メガネをかけた、神経質そうな男だ。


「アレン殿。陛下のご推薦とはいえ、我々アカデミズムの徒は、理論と実績しか信じません。まずは貴殿の実力を見せていただきましょう」


 ガレン教授が黒板を指差す。


「課題は『初級回復薬ポーション』の作成。制限時間は3時間。材料の選定、魔力撹拌のテンポ、火加減……全て教科書通り、完璧な手順で行ってください」


 生徒たちが一斉に準備を始める。

 薬草をミリ単位で刻み、水を沸騰させすぎないよう調整し、複雑な呪文を詠唱しながら右に3回、左に2回混ぜる……。

 なるほど、これがこの国の「常識」か。


「……見ていられんな」


 俺はため息をついた。

 あんなやり方では、素材の鮮度が落ちるし、魔力が空気中に逃げてしまう。


「アレン殿? 手が動いていませんが、諦めですか?」

「いえ。あまりに非効率なんで、俺のやり方でやらせてもらいます」


 俺はインベントリから、その辺の道端でむしってきた雑草……もとい、『薬効成分を含んだ野草』をわしづかみにした。


「ちょっ!? 何をするんですか!?」

「見ててください」


 俺は野草を洗わずそのまま鍋に放り込み、水をドボドボと注いだ。

 そして、火力全開。


「強火で一気に沸騰させる。灰汁あく取り? 必要ない。不純物は魔力操作で分離させるから」


 俺は鍋に手をかざした。

 スキル【錬金】発動。

 イメージするのは、素材のポテンシャルを極限まで引き出し、不純物を0にする工程。


「――抽出、分離、結合、濃縮。ハイ、終わり」


 パァァァァァッ!!


 鍋の中から、目を開けていられないほどの黄金の閃光が放たれた。

 教室中が光に包まれ、生徒たちが悲鳴を上げて目を覆う。


「な、なんだこの光はぁぁぁ!?」

「ポーション作りでこんな光、見たことないぞ!?」


 光が収まると、鍋の中には黄金色に輝く液体がたっぷりと満たされていた。

 甘美な香りが充満し、それを嗅いだだけで生徒たちの肩こりや眼精疲労が瞬時に吹き飛んだ。


「完成です。……まあ、材料が雑草だったんで、効果は『Sランク・特級ポーション』止まりですが」


 俺は小瓶に詰めてガレン教授に渡した。

 教授は震える手でそれを受け取り、鑑定魔法をかけた。


「ば、馬鹿な……! 不純物ゼロ……!? 魔力充填率100%……!? 特級どころか、これは伝説の『霊薬エリクサー』に近いじゃないか!」


 ガレン教授が腰を抜かした。

 教室は静まり返り、やがて爆発的な騒ぎになった。


「す、すげええええ! 雑草だぞ!? 雑草からエリクサーを作ったぞ!」

「手順なんて関係なかったんだ……!」

「先生! いや、師匠! 俺を弟子にしてください!」


 生徒たちが教壇に殺到する。

 俺は苦笑いしながら手を振った。


「落ち着いてくれ。教科書の手順が間違っているとは言わない。ただ、君たちは『形』にこだわりすぎて、『本質』を見失ってるんだ」


 俺は黒板の「複雑な手順」を消しゴムで消し、大きく一言だけ書いた。


 『素材の声を聞け』


「素材がどうなりたいか、どうすれば一番輝くか。それを感じ取って魔力を通せば、結果は自ずとついてくる。……まあ、慣れれば3秒で作れるようになるよ」


「「「一生ついていきますッ!!!」」」


 エリート生徒たちのプライドは、たった一回の実演で粉砕され、そして再構築された。

 この日を境に、王立学園では「教科書を捨てて鍋と対話する」奇妙な集団が急増することになる。


 教室の隅で、フェルが「やれやれ、また信者を増やしおって」と呆れながらあくびをしていた。

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