第2話 辺境の村と、呪われたゴミ屋敷の劇的ビフォーアフター
王都を出てから三日。
俺は大陸の北端に位置する辺境の村、リーゼに到着していた。
普通の馬車なら二週間はかかる道のりだ。だが、俺が装備している『疾風のブーツ(Sランク)』と、無限に飲める『特級スタミナポーション』のおかげで、ハイキング感覚で到着してしまった。
「ここがリーゼ村か……空気がうまいな」
魔物の脅威も少なく、のどかな農村だ。
俺は村長の家を訪ね、空き家がないか相談してみた。
「空き家……? いや、あるにはあるんじゃが……」
村長の爺さんが、言いづらそうに口ごもる。
「村外れの丘の上に、元々錬金術師が住んでいたボロ屋があっての。持ち主が失踪してから十年、誰も近づかんのじゃ。『幽霊が出る』とか『異臭がする』とか噂があってな。それでもいいなら、銀貨2枚で譲るが」
銀貨2枚。王都の宿代一泊分より安い。
俺は即決で金を払い、鍵を受け取った。
案内された場所に行ってみると、そこには確かに――壮絶な「ゴミ屋敷」が佇んでいた。
「うわぁ……これは酷い」
屋根は半分崩れ落ち、壁はツタに覆われている。
扉を開けると、十年分の埃とカビ、そして何かの実験廃棄物が散乱しており、足の踏み場もない。異臭の原因はこれか。
普通なら、解体して建て直すレベルだ。
だが、今の俺には関係ない。
「さて、やりますか」
俺は部屋の中心に立ち、スキルを発動する。
「対象指定:ゴミ、埃、カビ、腐敗した木材、その他不要物――【自動収集】!」
シュンッ!
一瞬だった。
視界を埋め尽くしていた瓦礫の山も、こびりついた汚れも、全てが光の粒子となって消滅した。
残ったのは、掃除したてのようにピカピカになった床と、骨組みだけになった家屋だ。
「よし、次は修繕だな」
俺はインベントリを開く。
そこには、以前ダンジョンの深層にある『迷わずの森』で、地面に落ちているのを拾い集めた大量の木材がある。
「素材指定:『千年樹の原木』。加工生成――【修復】」
『千年樹』は、鉄よりも硬く、燃えず、腐らないというS級建材だ。王族の城ですら、柱一本に使われているかどうかという代物である。
俺はそれを惜しげもなく使い、床板、壁、屋根を一瞬で張り替えた。
さらに、窓ガラスの代わりには『クリスタル・ゴーレムの核』を薄く加工した透明板をはめ込む。これは高い断熱性と防音性を持ち、外からの攻撃魔法すら弾き返す。
「ふぅ……こんなもんか?」
ものの十分ほどで、廃屋は「新築のログハウス」へと生まれ変わった。
見た目は温かみのある木造建築だが、その強度は要塞をも凌駕する。
俺は仕上げに、入り口に看板を掲げた。
インベントリから取り出した看板に、魔法で文字を刻む。
『アレン雑貨店』
ひねりのない名前だが、分かりやすさが一番だ。
棚には、これから俺が厳選した「ちょっと便利なアイテム」を並べる予定だ。もちろん、Sランク素材で作った規格外品ばかりだが、田舎暮らしにはこれくらい頑丈な方がいいだろう。
「最高の城ができたな。これからの生活が楽しみだ」
俺は新居のリビングで、自作の『最高級ハーブティー』を淹れ、優雅なティータイムを始めた。
その頃、王都近郊のダンジョン。
「くそっ! なんだこの硬さは!?」
勇者レオンは、下級モンスターである『オーク』相手に苦戦していた。
手には、武器屋で急遽購入した鉄の剣。ミスリルの聖剣を失った彼には、それしか買えなかったのだ。
「レオン、無理しないで! 回復魔法がもう……!」
マリアが悲鳴を上げる。
以前なら、魔力が切れそうになればアレンが即座に『ハイエーテル』を渡してくれた。だが今は、高価な回復薬など買えるはずもない。
「おい、予備の剣はないのかよ! もう刃こぼれしてやがる!」
ガイルも安物の杖で応戦するが、魔法の威力が以前の十分の一も出ない。アレンが常に行っていた「魔力伝導率の調整」がなくなった杖は、ただの木の棒に等しかった。
「が、ガアアアアッ!」
「ぐわあっ!?」
オークの棍棒がレオンの脇腹を掠める。
鉄の鎧が紙のように凹み、レオンが吹き飛ばされた。以前の『竜鱗の鎧』なら、傷一つ付かない攻撃だったのに。
「ハァ、ハァ……くそ、なんでだ……なんでこんな雑魚に……!」
泥にまみれながら、レオンは無意識に振り返った。
いつもなら、そこにはアレンがいて、予備の武器とポーションを差し出していたはずだった。
だが、そこにいるのは怯えるマリアと、息切れしたガイルだけ。
「(アレンの奴……まさか、本当にあいつのおかげだったのか……?)」
脳裏に浮かんだ不吉な疑念を振り払うように、レオンは叫んだ。
「撤退だ! 一度村に戻るぞ! クソッ、今日は調子が悪いだけだ!」
彼らがアレンの本当の価値を理解し、絶望するのは――もう少し先の話である。




