第19話 王立学園から招待状が届いたが、講師として行くなんて聞いてない ~「平民に教わることなどない」と言っていた貴族たちが、俺の荷物(S級マジックバッグ)を見てざわついている~
帝国との一件が片付き、世界に平和(と通販カタログ)が行き渡ってから数週間。
『アレン雑貨店』は、今日も今日とて大忙しだった。
「はい、ポーション100本、帝国支部へ転送完了っと」
「主よ、この『こたつ』なる魔道具、最高だぞ。我は一生ここから出ぬ」
「ニャー……(こたつムリ……溶ける……)」
フェルとクロが、新商品『魔導こたつ』の魔力に敗北して液状化している。
俺も伝票整理を終え、みかんを剥こうとしたその時だった。
カランコロン♪
「ようアレン殿! 元気にしておるか!」
ドアを開けて入ってきたのは、豪奢なマントを羽織った大男――国王ルークスだった。
最近は「視察」と称して週3で店に来ている。もはや常連のおっさんだ。
「いらっしゃい陛下。今日は何の用で? また新作スイーツの買い食いですか?」
「失礼な。今日は真面目な頼みがあって来たのだ」
国王は咳払いを一つすると、一枚の封書を差し出した。
『王立魔法学院・特別講師招聘状』と書かれている。
「……なんですかこれ」
「うむ。実はな、最近の学生たちが『アレン殿のようになりたい!』と、こぞって錬金術や生産職を志望しておるのだが……」
国王は困り顔で頭をかいた。
「既存の教師レベルでは、そなたの技術の『基礎のキの字』も教えられんのだ。生徒たちからは『授業がつまらん』と不満が噴出し、教師たちは自信を喪失して胃に穴が空きそうでな」
「はあ」
「そこでだ。アレン殿に『特別講師』として、短期間だけでいいから指導をお願いしたい!」
俺は即答した。
「嫌です」
「即答か!」
「だって面倒くさいし。俺はここでスローライフを送りたいんですよ」
俺がこたつに潜り込もうとすると、国王はニヤリと笑った。
「そう言うと思ったぞ。だがアレン殿、断ると面倒なことになるぞ?」
「?」
「そなたが来ないなら、『全校生徒1,000人を、この村に合宿させる』という嘆願書が出ているのだが」
「げっ」
静かな田舎の村に、血気盛んな学生が1,000人。
騒音、トラブル、環境破壊。スローライフの崩壊だ。
「……分かりましたよ。行けばいいんでしょう、行けば」
「おお! 受けてくれるか! 礼を言うぞ!」
こうして俺は、渋々ながら王都へ出張することになった。
留守番はリリアとクロに任せ(二人は『こたつ』の番をしたがった)、俺はフェルだけを連れて王都へ向かった。
王立魔法学院。
そこは貴族の子弟や、魔力の高いエリートたちが集う最高学府だ。
校門の前には、豪勢な馬車が列をなしている。
「ここかぁ。立派な建物だな」
俺は徒歩で校門をくぐろうとした。
服装はいつものシャツにエプロン姿。肩には小さな革鞄を提げているだけだ。
すると。
「おい、そこな平民! 止まれ!」
門番……ではなく、高そうな制服を着た男子生徒数人に呼び止められた。
胸には『生徒会』の腕章をつけている。
「ここは貴族のための学び舎だ。納入業者なら裏口へ回れ」
「ああ、いや。今日から講師として来たアレンだ」
「はあ? 講師?」
生徒たちは俺の顔を見て、次に服装を見て、鼻で笑った。
「嘘をつくな。講師というのは、ローブを纏った厳格な魔導師様のことだ。お前のような貧相な若造が務まるはずがない」
「それに、なんだその小さな鞄は。教科書一冊入らないだろう」
彼らの視線には、明らかな侮蔑があった。
平民への差別意識と、自分たちが特権階級であるという驕り。
……なるほど。陛下が「教育してやってくれ」と言った意味が分かった気がする。
「貧相ですみませんね。でも、教材ならこの中に入ってますよ」
俺は肩にかけた小さな革鞄――『四次元ショルダーバッグ(容量無限)』をポンと叩いた。
「ハッ! 強がりを。そんな小さな鞄に何が入るというんだ」
「せいぜい、筆記用具くらいだろう?」
生徒たちが嘲笑う中、俺は鞄の口を開けた。
「えっと、まずは実験用の機材を出さないとな。よいしょっと」
俺は鞄に手を突っ込み、ズルズルと巨大な物体を引き出し始めた。
「……は?」
生徒たちの笑いが凍りつく。
俺が取り出したのは、高さ3メートルはある『大型錬金釜』だったからだ。
鞄の口の大きさなど無視して、巨大な鉄の塊がヌルリと出てくる。
「な、ななな……!?」
さらに俺は続ける。
「あとは、調合用の机と……黒板も自前のがいいな。それと、生徒全員分の教科書1,000冊」
ドスン! ガシャン! ズズズン!
俺は鞄から次々と、校門より巨大な機材や、図書館が埋まるほどの本の山を取り出し、地面に並べていった。
小さな鞄一つから、教室一つ分以上の物資が現れる異常な光景。
「あ、ありえない……! なんだその鞄は!? 空間魔法の極致か!?」
「いや、Sランクの『インフィニティ・バッグ』だけど。……で、これ運ぶの手伝ってくれる? 君たち生徒会なんだろ?」
俺がニッコリ笑うと、腰を抜かしていた生徒たちは、パクパクと口を開閉させた後、一斉に直立不動の姿勢をとった。
「は、はいぃっ!! た、ただちにお運びしますぅ!!」
どうやら、最初の「わからせ」は完了したようだ。
背後でフェルが「ククク、人間とは見た目でしか判断できん愚かな生き物よな」と笑っていた。
こうして、波乱の学園生活が幕を開けた。




